パラリンピックPRESSBACK NUMBER
炎上する車の中で友人3人を亡くして…主将・池透暢が“車いすラグビー”に夢中になった理由 「次は金メダル」、叶えたいもう1つの夢とは?
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byNaoya Sanuki
posted2021/08/31 11:00
キャプテンとして車いすラグビー日本代表を引っ張った池透暢。目標としていた金メダルには届かなかったが、すでに次の夢へと歩みを進めていた
そして、迎えた東京パラリンピック。
フランス、デンマーク、オーストラリアを相手に予選3連勝。池のパスを、同じハイポインターの池崎大輔や島川慎一がキャッチし、相手のタックルにもひるまず、むしろ当たり返す強さで切り込んでいく日本。オフェンスだけでなくローポインターが壁となって走路をつくるディフェンスも冴え渡り、まさに完璧な展開が続いた。
本当に強い、信頼できる12人。池が何度もそう繰り返してきた最高のチームは、まさしく世界一を本気で狙う、“強い”日本代表だった。
戦う選手、支えるスタッフ、そして競技に触れた多くの人々が「勝てる」と信じて疑わずにいた。だが、準決勝で対峙したイギリスは今大会で対戦したすべてのチームの中で、最も日本を研究し、完璧な対策を施してきた。日本にとって紛れもない強者だった。
ハイポインターの池や池崎、島川を封じるだけでなく、ローポインターの守備をするりとかわし、日本のミスやファウルを誘う。試合巧者のイギリスに49対55で敗れ、金メダルを獲るための挑戦は終わりを告げた。
銅メダルを獲得した3位決定戦直後、コートでは選手、スタッフが大きな輪をつくっていた。互いの車いすに手を重ねた円陣の中に、キャプテン池の声が響く。
「みんなよく頑張りました。ありがとう。次は金メダルを獲れる、強いチームになりましょう」
池が描くもう1つの夢
亡くした友人たちのため、そして1人のアスリートとして金メダルを獲りたい――その夢を持ち越しとなったが、池にはもう1つ、描く夢がある。
「(18年に)単身で渡ったアメリカは、たくさんのチームがあって、頭もヒゲも白髪のおじさんプレーヤーもたくさんいたんです。その中に腕を切断した13~14歳ぐらいの少年プレーヤーがいました。その姿を見た時、『すごく美しいな』と思って。彼は将来、3.5のいいハイポインターになりそうな選手なんですが、この子の未来、広がる可能性はここにいるおじさんたちが楽しめる環境があるからなんだな、と。
これからは日本でもそんな光景が当たり前になってほしいし、トップだけでなく幅広い世代のパラアスリートが成長できる場が増えてほしい。障がいのある人が楽しむだけのスポーツではなく、健常者も一緒に楽しむ未来。いつか、そういう世界になれることを思い描いて、思いきり進んでいきたいですね」
倒されても、また起き上がる。まさに車いすラグビーのそれと同じだ。
金メダルも、描く未来も、いつか叶う日に向けてまた一歩ずつ。信じた道を丁寧に、力強く進んでいくことを誓っている。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。