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炎上する車の中で友人3人を亡くして…主将・池透暢が“車いすラグビー”に夢中になった理由 「次は金メダル」、叶えたいもう1つの夢とは?
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byNaoya Sanuki
posted2021/08/31 11:00
キャプテンとして車いすラグビー日本代表を引っ張った池透暢。目標としていた金メダルには届かなかったが、すでに次の夢へと歩みを進めていた
比較的、障がいの軽いハイポインターと呼ばれる3.0の選手である池は、同じハイポインターと比べても車いすの座面が高い。身長が高いこと、事故の後遺症で右脚が曲げにくいこともあるが、あえて座面を高く設定することで、相手よりも高い位置でボールに触り、相手の頭上でパス交換を行うことができる。そうなれば小学生の頃には野球で、中学ではバスケットボールで磨いたパス力、スローイングの正確さという自身の強みを生かせる。そしてそれは日本の武器にもなると考えた。
「ロンドンパラで初めて見た日本代表は、高さがない分、ボールを入れるのに苦労していて、ハイポインターがどんどん走ってローポインターが相手をブロックする展開を軸としていました。でもそこに僕のパスがあれば、たとえハイポインターが囲まれた状況でも、正確なパスを投げればローポインターもキャッチして、トライする状況をつくれる。そうなれば相手はハイポインターだけでなく、どこへマークにつけばいいかわからないですよね。日本が世界で勝つためには、その状況をどれだけつくれるか、だと思ったんです」
まさに有言実行とばかりに、日本代表に加わった12年から池はチームの司令塔として活躍。右手から繰り出すパスでチームの攻撃を司るだけでなく、14年から主将も務め、16年のリオパラリンピックで銅メダルを獲得に貢献した。18年にはオーストラリアを1点差で下して世界選手権を初制覇。自国開催のパラリンピックでの金メダルは、夢物語から一気に現実味を増していた。
座面が高い分、転倒のリスクを伴う
当然、対戦相手は池のパスが日本の起点になるとわかっているのだから、池を潰しに来る。座面が高い分、タックルを受ければ転倒のリスクも伴うが、ならばその上を行くのみとばかりに、坂道ダッシュやタイヤを引くトレーニングで瞬発力と体幹を鍛え、相手のタックルを受けても簡単に倒れない屈強な身体と、先回りするためのチェアワークを磨ていきた。動き続ける持久力をつけるために、水泳もトレーニングに取り入れたという。
事故によって、腹筋の組織も損傷していたため、体幹を鍛え筋力を増やすのも並大抵のことではなかったが、1つ1つの努力が必ず目指す目標、金メダルにつながると信じて必死に取り組んできた。