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《追悼》19歳の見習い記者に「一緒にプレーしていいですか?」ゲルト・ミュラーの“記憶と記録に残る”ゴール感覚と謙虚な人柄
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/08/24 17:04
75年の生涯に幕を下ろしたゲルト・ミュラー。数々の記録を作ったストライカーは、謙虚な人柄でも多くの人に愛された
ゲルト・ミュラーの死去から2日が経ち、バイエルンは8月17日にドルトムントとのDFLスーパーカップに挑んだ。
ウォーミングアップに、バイエルン全選手がゲルト・ミュラーの背番号9をつけて登場。試合前の黙とうではマヌエル・ノイアー、ミュラー、そしてレバンドフスキが当時のユニフォーム、現在のユニフォームにミュラーの文字と背番号9、そして「ダンケ(ありがとう) ゲルト」とプリントされたTシャツを手に持ち、故人を偲んだ。
どんなことをしてでもゴールを決めるという絶対的な意志
“皇帝”ベッケンバウアーも悲しみに暮れている。バイエルンで、そして西ドイツ代表で共闘した名手にとって「ゲルトはただの同僚ではない。心から苦楽を分かち合える友人だ。兄弟のような存在」だった。
その言葉が重い。
「ゲルト・ミュラーという選手の意味や価値についてよく聞かれる。私の答えはこうだ。サッカーとはゴールが決定的に大事なスポーツだ。ゴールなしでもいいプレーはできるが、勝つことはできない。ゲルトはどんなことをしてでもゴールを決めてみせるという絶対的な意志を持っていた。今でも覚えているのは、ミュンヘン・オリンピック・スタジアムのこけら落としとなったソ連戦だ。ボールを持ったウリ・ヘーネスがゴール前で完全フリーだったのに、ゲルトが突然後ろから猛追して、ゴールを決めてしまったんだ。100年後の世界でもゲルト・ミュラーのことは語られているに違いない。そして、どのように彼がゴールを決めていたかを見て驚くことだろう。不世出の人だ」
ミュラーとベッケンバウアーがバイエルンで出会ったところから、バイエルン、そしてドイツサッカーの歴史は加速的に進歩した。だが、2人の人生はリンクしない可能性もあった。歴史は様々な偶然が重なり合って作られていく。