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〈退任する監督へ…〉近江に敗れた日大東北の“4番エース”が、雨天ノーゲームや「悲劇の3球負傷降板」よりも悔しかったこと 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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posted2021/08/21 17:02

〈退任する監督へ…〉近江に敗れた日大東北の“4番エース”が、雨天ノーゲームや「悲劇の3球負傷降板」よりも悔しかったこと<Number Web> photograph by KYODO

8月20日に行われた近江-日大東北。敗れた日大東北ナインの胸には、ある思いがあった。

準々決勝から“全て逆転勝利”で夢舞台の切符を手にした

 弱さを自覚したチームが成長できた背景にこそ、近江戦後に宗像が語った「チーム力」が真っ先に挙げられる。

 牽引役は主将の松川だった。

「今日も俺に任せろ!」

 試合前に必ずエースに宣言する。主将に呼応し、他の選手も声を張る。松川が言う。

「達也は4番でもありますけど、エースとして僕らを信頼してもらうためにそういう気持ちは大事だし、打たないと勝てないんで。チーム全員にその意識があります」

 試合を重ねるたびに、信頼感がチームに充満する。ミスをしても責めるのではなく、笑顔で尻を叩くようなムードが自然と日大東北に根付いていた。ショートを守る2年生・山下日南太が証言する。

「失点に繋がるミスをして、本当なら先輩は怒って当然なのに『もっと思い切ってやれ!』とか、むしろ声で引っ張ってくれる。それが心強いし、そんな先輩たちのためにもっと頑張ろうと思えるんです」

 ミスをしても最後には勝つ。そんな不思議なチームは、準々決勝から全て逆転勝利で夢舞台の切符を手に入れた。

負傷降板の吉田「監督さんに1勝をプレゼントしたかった」

 福島の頂点に立ち、勝利者となった宗像は初めて自らの退任を発表した。

 全ては監督のために。

 それが、日大東北の原動力だった。

 近江戦での敗戦後、松川の脳裏をよぎる。「監督さんとできるのが最後なんだと思うと、寂しいですね」。声を詰まらせた。

 吉田は自身の負傷降板以上に、「監督さんに1勝をプレゼントしたかった」と、宗像への恩返しができなかったことを悔やんだ。そして、ノーゲームとなった試合での先発を振り返り、「甲子園では教えてもらったことができました」と、涙声で感謝を述べた。

 チームが成長し、成熟した夏。宗像は監督として最後の試合を甲子園で締めくくった。

 そのことを噛みしめることはなかったが、少しだけ余韻に浸ることはできた。

「正直に言うと、福島での調子をそのまま、チームが一番いい状態で試合をしたかった。いろんなことがあった甲子園でしたが、思い出深い期間をすごさせてもらいました」

 日大東北の将が花道を歩く。

 過ぎ去る頃、甲子園に雨が降っていた。

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