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空中戦で勝負せずに銀メダル 「世界でかっこいいスケーターに」12歳開心那“プロスケーターも驚く”2つの凄さ
text by
梶谷雅文Masafumi Kajitani
photograph byJIJI PRESS
posted2021/08/07 17:03
スケボー・女子パーク種目で銀メダルを獲得した開心那(12)
その1)選ぶ技のセンスが良すぎる
五輪でのランを見れば一目瞭然だが、彼女はエアーで空高く舞うわけでもないし、「540」(空中で体を1回転半する大技)ができるわけでもない。まだ身体が小さくパワー不足が理由で空中戦での勝負を選んでいないのかもしれないが、彼女の真骨頂はグラインドやスライドといったリップトリックだ。
グラインドとはボードとウィールをつなぐT字型の金属部分であるトラックを使ってリップ(コース最上部の縁の部分)をゴリゴリと削る技。そしてスライドとはボードのボトム部分でリップを滑る技。ストリートでは縁石やレールで披露するトリックなのだが、彼女が選ぶノーズグラインドやバックサイドリップスライドというリップトリックは実にセンスがいい。ストリートスケーター好みのトリックセレクションなのだ。
さらに彼女はキックフリップインディやバックサイドエアーなど以外、必要以上にグラブ(手でデッキを掴むこと)をしていない。つまり、あまりデッキを手で触っていないのだ。スケートボードは基本的に何をやっても自由ではあるが、このコミュニティでリスペクトを得るにはそれなりの美的センスが必要となる。特にストリートスケートでは、手を使うトリックは時代遅れとされる傾向にある。そういった意味でも、開はストリートスケーター好みなのだ。
そして、トリックを行っているときの身体の形がいかにクールであるか。これもスケーターとして重要なポイントになる。開の場合、五輪のランの序盤で見せたノーハンドのオーリーを見ただけで、彼女が素晴らしいスタイルの持ち主であることがわかる。空中でのシルエットが華麗で実に美しい。スピードも衰えることなく、しっかりとボードを踏んで力強くコースを回る。トリックを成功させる瞬間もしゃがみ過ぎることなく、また肩がブレることなく、しっかり腰が据わり安定している。すべてのトリックの芸術性が非常に高い。
その2)敢えて「誰も触ることのなかったコース」へ
加えてコースの使い方。女子パークでは誰も触ることのなかったコースの外に設置されたベンチのような角レールに軽く乗っかり、グラブすることなくノーハンドで再びコースへ。
人と違うことをやるという個性もスケーターとしては大切なのだ。さらにノーズグラインドもリップスライドも、敢えて難易度が高くなるヒップ(リップが平面ではなくせり出した部分)で披露している。決して派手とは言えないが、玄人が見て唸る類のトリックで高得点を叩き出していったわけだ。