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“ミラクル星稜”野球を離れた同期17人の思いも背負って…ロッテ岩下大輝が高校野球で学んだ「諦めない心」
posted2021/08/03 11:00
text by
梶原紀章(千葉ロッテ広報)Noriaki Kajiwara
photograph by
Chiba Lotte Marines
2014年7月27日。石川県立野球場にて行われた全国高校野球選手権大会石川大会決勝。星稜高校は、0-8で迎えた9回に一挙9点を奪い、9-8で小松大谷高校に勝利して2年連続17度目の甲子園出場を決めた。これが「ミラクル星稜」と話題となった試合だ。
だから、この年のドラフトで千葉ロッテマリーンズから3位指名を受けた星稜のエース・岩下大輝投手は、入団当初から「ミラクル星稜の岩下」という話題と共にいた。
ただ本人にしてみれば微妙な話題でもある。自らの場外本塁打などで8点ビハインドの最終回に9点を奪い逆転。しかし、そこまで失点をしたのは岩下である(6失点)。プロで投手を務める身からすると、この話題の回答は周囲が思うよりも難しい。
「周りが凄い打ってくれた。周りが頑張ってくれたから、こうやって話題になっているし甲子園に行けたから注目をされてプロへの道も開けた。本当に仲間に感謝です。もちろん、ボクにとって大事な試合であることは間違いない。おかげでプロに入ってから自己紹介をするのも楽だった。星稜と言えば、『ああ、あの時の大逆転した時のね』と分かってもらえるわけですからね」
陽気な岩下は、そう言ってあの夏を振り返る。
今年でプロ7年目。月日が流れた。岩下は5月26日の阪神タイガースとの交流戦で甲子園のマウンドに帰ってきた。
思い出すのは“ミラクル”の前年
この場所で思い出されるのは「ミラクル星稜」として甲子園に出場して3回戦まで進出した時のことではなく、高2年夏の投球だ。1回戦の鳴門高校戦で先発登板。6回までは1-1と好投をしていたが、7回に一挙、8失点して敗れた。
「それまでいい勝負をしていたのに、自分のせいで試合を壊してしまった。野球の怖さを知った。ちょっとの気の緩みというか油断からイッキにやられた。悔しくて自分に腹が立った」(岩下)
甲子園での苦い経験こそが、岩下を成長させた。2年秋から3年にかけて一気に力をつけプロ注目の選手になった。甲子園での悔しさを甲子園で晴らそうと臨んだ高3夏、石川大会決勝で最終回に8点差となっても諦めなかったのは、この時の経験があったからだ。
「ボクは甲子園で7回に8失点した。あの時の経験があるから、もしかしたら、これだけ点差があっても、なにか1つのキッカケでなんとかなるかもしれないという思いがあった」
誰もが諦めず、「笑って終わろう」と臨んだ土壇場で、海外のニュースでも紹介された長くドラマチックな1イニングは生まれたのだ。