オリンピックへの道BACK NUMBER
<世界ランク1位を襲った試練>全治6カ月の重症でも決勝T進出…フクヒロペアを支えた世界一の信頼関係
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJIJI PRESS
posted2021/08/01 11:01
29日、中国ペアとの準々決勝の試合中に笑顔を絶やさなかった福島由紀(左)、廣田彩花(右)のフクヒロペア
1つ先輩にあたる福島は、廣田と同じ実業団チームに所属したことが縁で、ペアを組んだ。
だが、思うような結果は残せなかった。リオデジャネイロ五輪代表争いにも加われず、一度はペアを解消した。はっきりと気持ちを出し、意見を言う福島と、意思を伝えるのが苦手な廣田の間で意思疎通がうまくいかなかった。練習の方向性を決め戦略を立てるにも、試合中に連携するにも、コミュニケーションをとれなければ先は見えない。
ペア解消後、お互いに別の選手と組んだが、自分より後輩の選手と組んだ廣田は、いきおい、リードする立場になり、意見や思いをしっかり伝える大切さを学んだ。そして3カ月を経て、2人は再びペアを組んだ。
ペア解消を乗り越えて築いた信頼関係
コミュニケーションは足りなくても、試合中のプレーはかみ合うことがあったし、それぞれに認める部分があった。お互いに向き合って話ができるようになったとき、再びペアとして歩み始めた。一度離れてそれぞれの時間を経て結束が高まり、成績も残ったことが相乗効果となって信頼を再構築していった。
危機とともに迎えた五輪で、2人を支えたのはその信頼関係だった。
「廣田が、すごく膝が痛かったと思うけれど、よく頑張ってくれたと思います」(福島)
「自分たちらしい、フクヒロらしいプレーも何回かあって、そこはよかったと思います」(廣田)
試合後、対戦相手の陳と賈がフクヒロペアのもとに寄ってきた。廣田の右膝に目を向けると、笑顔で言葉を交わし、4人はハグをした。
「すごくうれしかったです」と福島と廣田が語るその場面、賈はこう言葉をかけた。
「ここまで頑張って、コートに立っているだけで、尊敬しています」
何年も競り合い、世界のトップを争ってきた福島と廣田への敬意がそこにあった。
福島と廣田の東京五輪は計4試合で幕を閉じた。目指していた金メダルには届かなかったが、大きな余韻と残像とともに、そのプレーは見る人の心に確実に刻まれた。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。