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<世界ランク1位を襲った試練>全治6カ月の重症でも決勝T進出…フクヒロペアを支えた世界一の信頼関係
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJIJI PRESS
posted2021/08/01 11:01
29日、中国ペアとの準々決勝の試合中に笑顔を絶やさなかった福島由紀(左)、廣田彩花(右)のフクヒロペア
福島・廣田の通称“フクヒロペア”の特徴は、状況に応じてフォーメーションを変える「ローテーション」の速さや、コート全体をカバーする力を身上とするプレー。持ち味の粘り強さに加え、2017年から世界選手権で3年連続準優勝に終わったことの反省により、攻撃力も養ってきた。その成果は五輪前の大会で表れていた。優勝を飾った昨年の全英オープンや全日本総合選手権では、福島が硬軟合わせたショットで相手がレシーブできるコース、ショットを限定し、廣田が仕留めるパターンが見られた。
しかし、その持ち味で相手を圧倒する姿を見ることは、怪我によってかなわなかった。
奇跡の決勝トーナメント進出
第3ゲームを取られ、準々決勝で敗れた2人の目には光るものがあった。しかし、表情にネガティブな感情は浮かんでいなかった。1次リーグで連勝したあとの廣田の言葉にその理由が隠されている。
「一度は立てないんじゃないかと思ったところからここまで来られました。2人で楽しんだ結果が2勝という結果につながって、それもすごく奇跡だなって思っています。このコートに立てることがほんとうに幸せです」
一度はオリンピック出場をあきらめ、大会後に手術することも決まっている。その状態にあって、でも、コートに立つことを選び、それが実現できた。しかも決勝トーナメントにまで駒を進めた。
「ここまでやれたことがすごく大きなことです」
と大会を振り返る福島は、普段以上に気迫に満ちたプレーを見せていた。
「廣田が怪我をして、出場を決めてから、それは当たり前だと思うようにしました。廣田がとれないところを自分がとる、自分が追うと覚悟して練習してきました」
試合後には廣田の頭をなでて労った。
「ありがとうと伝えました」
プレーに、その仕草に、2人の強い結束がうかがえた。
それはこの2人ならではの過程があっての結びつきだった。