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<世界ランク1位を襲った試練>全治6カ月の重症でも決勝T進出…フクヒロペアを支えた世界一の信頼関係
posted2021/08/01 11:01
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
JIJI PRESS
敗れた直後、福島由紀は柔かい表情を浮かべた。最後、身体の右側に来た強打を返せなかった廣田彩花と左手でタッチする。
やがて2人の目に涙が浮かんだ。
7月29日、バドミントン女子ダブルス準々決勝。中国の陳清晨、賈一凡組と対戦した世界ランキング1位の福島、廣田は1-2で敗戦。大会を終えた。
「最後まであきらめず、2人で楽しんでやるというのは伝えられたと思います」(福島)
最後まであきらめない――。それは大会前、出場できるかどうかの瀬戸際に立たされて生まれた2人の決意だった。
金メダル候補が直面した試練
金メダル候補として注目されたペアの異変が明らかになったのは、1次リーグ初戦。廣田が右膝まわりに入念なテーピングを施し、右足全体を覆うような大きなプロテクターを装着して登場したときだった。
試合に勝利したあと、明かされたのは全治6カ月と言われる右膝の前十字靭帯断裂の重傷を負ったことだった。6月の日本代表合宿中でのことだった。
多くのアスリートの競技人生を左右してきた大怪我に廣田の気持ちは揺れ動いた。
「一度は(オリンピックのコートに)立てないんじゃないかと思いました」
廣田は、状態をこう明かす。
「コートに立てるまで回復して、7、8割は戻っています」
ただ、カバーする範囲はいつもより狭まり、プレーに影響を及ぼしているのは見てとれた。
それでも福島は語った。
「廣田ができる範囲で動いて自分がカバーするだけですし、それは苦ではないです」
2戦目を勝利して準々決勝進出を決めた。しかし、最終戦で敗れて2位となり、準々決勝は世界ランキング3位の中国ペアとの対戦となった。1位通過していれば、あたらなかったであろう強豪ペアとの対戦で、まずは第1ゲームを先取。ただ第2ゲーム以降は強打を中心に前後左右に揺さぶる相手に対応できなかった。