濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「私、もうここにいなくていいな」里村明衣子が語ったイギリス移住と“仙女”への思い…7.11後楽園で橋本千紘が流した涙の意味とは
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2021/08/01 11:00
“女子プロレス界の名門”センダイガールズプロレスリングの創設者・代表でもあり、現在はNXT UKでも活躍を続ける里村明衣子
「自分が新人の時は自由がなかった。ですが仙女では休みを多めに、しっかり取っています。付き人制度も16年前に廃止しました。(女子プロレス界の慣習だった)三禁(酒・タバコ・男厳禁)も入門から3年までとしています。20歳以上はそれも応相談ですね。
休みの日に彼氏や家族と過ごす時間、プライベートでの感受性はプロレスラーとしての人間性の成長に大きく響きます。昔は恋愛がタブーの世界でしたが、今はオープンでいい。変わってきていますね」
仙女の選手に“里村イズム”を感じる部分はどこかと聞くと「里村イズムというものがあったとして、それを継承してほしいと思ったことはないです」という答えが返ってきた。
ADVERTISEMENT
「それぞれがいいと思ったものを取り入れて、悪いものは取り入れないでほしい。それだけです(笑)」
橋本が“危険な角度”のオブライトに込めた思い
長与千種の弟子として育ち、数々のタイトルを手にし、地方発の女子団体を定着させた。NXT UKだけでなく、かつては男子選手と闘ってDDTのシングル王座を獲得してもいる。宮城出身のMAO(DDT)曰く、里村は「東北では馬場、猪木、サスケの次に有名なプロレスラー」。
圧倒的なカリスマ性を持ち、多くの女性にとってのロールモデルになりうる里村は、しかし弟子たちにさえ「自分のようになれ」とは言わない。考えるのは選手自身なのだ。
7.11後楽園、橋本と桃野のタイトルマッチは大激闘になった。桃野がスピーディーな飛び技と鮮やかな切り返し、関節技で橋本を攻め込む。橋本はパワーで何度も形勢逆転。パワースラムからのジャーマンスープレックスホールドでベルトを死守した。ジャーマンには「オブライト」、パワースラムには「バズ・ソイヤー」と、その技の達人の名を冠している。
「桃野! これからずっと私のライバルとしてやっていけ!」
試合後の言葉は、対戦相手への橋本らしいエールだった。オブライトの角度がかなり厳しいものだったのも、相手が桃野だったからだ。
「ここまでやらないと桃野には勝てないって分かってるので。でも、理解してあの角度で出してます」
プロレスを見ていて、頭から落とすような危険な角度の投げ技にヒヤッとさせられることはある。激しければ激しいほど素晴らしい試合だとは言わない。ただ橋本と桃野のように、ある種の信頼関係があるからこそ出せる技もあるのだ。