濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「私、もうここにいなくていいな」里村明衣子が語ったイギリス移住と“仙女”への思い…7.11後楽園で橋本千紘が流した涙の意味とは
posted2021/08/01 11:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Essei Hara
仙台に拠点を置く女子プロレス界の名門、センダイガールズプロレスリング(通称・仙女)が転機を迎えている。創設者であり代表の里村明衣子が、WWE傘下のNXT UKと契約しイギリスに移住したのだ。
「“日本の女子プロレスはレベルが高い”は10年前の話」
2018年にはアメリカでの「メイ・ヤング・クラシック」トーナメントに出場した里村。WWEからの評価の高さは、選手としてだけでなくコーチ契約を結んだことからも分かる。日本の女子プロレスは、海外のプロレスファンにも「JOSHI」で通っており、里村はその頂点に君臨する選手としてリスペクトされていると言っていい。
ただ里村自身は「日本の女子プロレスを広める」、「イギリスに乗り込む」といった感覚ではないようだ。仙女を通じてコンタクトを取ると、NXT UKとの契約についてこう語った。
「今後、自分がプロレスでビジネスを続けるなら世界規模でのビジネスを見てみたいと思いました。NXT UKのファイトスタイル、ファイターに魅力を感じたということもありますし、学ぶべきことはたくさんあると思っています」
もちろん、国単位ではなく団体によっても“女子プロレス事情”は大きく違う。一概には言えないと前置きして、里村はこんな実感を語ってくれた。
「日本の女子プロレスラーは興行数がとても多いため、プロレスだけで生活できている選手が多い。ただ、それに甘えているせいか成長度やレベルは低いと感じます。海外の選手は大手と契約していない限り、試合数は少ない。そういう選手は他に仕事をしながらプロレスをやっています。そのぶん現実的ですね。WWEで活躍している選手も、ほとんどは小さな団体から地道にやってきている。苦労を経験してるんです。よく“日本の女子プロレスはレベルが高い”と言われますが、それは10年前の話。世界を回って女子プロレスの成長を図っていくのが私の役目だと思っています」
イギリス挑戦の裏で、「私、もうここにいなくていいな」
6月にはNXT UKの女子タイトルを獲得した里村。そこには、これまでとは違う感慨があったそうだ。
「昨年はコロナ禍で経営に悩まされていた自分が、今はイギリスでチャンピオンになっている。1年前の惨めな姿を思い返したら、1人で勝手に感慨深くなりました。この歳で“何がなんでもチャンスを掴んでやる”という気持ち、また無我夢中に生きられることに本当に感謝しています」
日本を離れる決断をしたのは、仙女の選手、スタッフへの信頼があるからだ。「いつか里村明衣子が主力ではなくなる日」を自分自身が想定し、2年間かけて引き継ぎをしてきたという。その結果「昨年、事務所に行った際に“私、もうここにいなくていいな”と思う瞬間がありました」というほどになった。「今年からは選手、スタッフに現場を任せられるようになりました」。