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《19歳史上最年少金メダル》体操新王者・橋本大輝は何がすごいのか 高難度の技への挑戦と「常に前だけを見て…」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2021/07/29 17:02
19歳にして、体操男子個人総合を制した橋本大輝。内村航平の連覇を継いで、新時代の幕開けを思わせた
「最後、落ちてもいいから楽しんでこよう」
コーチたちには「楽しんでこい」と言われた橋本自身もそのつもりだった。
「最後、落ちてもいいから楽しんでこようかな、と。最終演技者で逆転がかかる場面で緊張もあったんですけど、ここで通し切れたら金メダル獲れるし、間違いなく楽しい試合にできると思ったので、最後、楽しんで一周、一周の車輪を大きく回していたのが鉄棒の演技でした」
緊張はあったと言うが、そうとは感じさせない落ち着きがそこにうかがえた。
鉄棒もさることながら、つり輪での採点、跳馬でのミスを引きずらなかったことも、橋本の気持ちの強さを思わせた。つり輪の後をこう振り返っている。
「少し技が認定されなかったので、少し焦ったんですけど、試合は何があるか分からないので、しっかり切り替えて、あと集中してやっていこうと切り替えました」
2019年の世界選手権ではナゴルニーと差が
強い気持ちは、この大会で優勝候補と呼ばれるまでになった、1年に満たない期間のチャレンジにもうかがえる。
2019年、橋本は高校3年生で初めて世界選手権に出場した。2019年、技の難しさを表すDスコア(演技価値点)は、6種目あわせて34点に満たなかった。この大会の個人総合を制したナゴルニー(ロシア/今大会はROC)の36点台とは差があった。
その差に刺激され、Dスコアの向上を希求した。順調に高めていった橋本がさらにチャレンジしたのはこの冬のことだ。昨年12月の全日本選手権でのDスコアは35.8点で総合5位の成績に終わっている。団体の出場枠は4名。代表入りを目指す方向としては、完成度を上げてEスコア(出来栄え点)を高めることで勝負する手段も考えられる。
しかし橋本が選んだのは、よりDスコアを上げる、つまり高難度の技への挑戦だった。