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「左足は脱臼し、右手中指はえぐられていた」ソフトボール上野由岐子(39歳)が語っていた13年前“あの413球の裏側”
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byJMPA
posted2021/07/26 17:08
2日間で413を投げ抜き、ソフトボール代表を金メダルに導いた26歳の上野由岐子
上野 実は大会が終わってから知ったんです。そのとき治療してくれたトレーナーの方は、心配させないよう黙っていたみたいで。そりゃ痛いはずだよな、と思いましたけど(笑)。
――右手中指の状態も相当ひどかったそうで。
上野 皮というより、肉ごとごっそり持っていかれて、えぐられたような感じでした。あんな状態になったのは初めてで、さすがに驚きました。オリンピックではそれまで封印していたシュートを多投したのですが、そのせいで手がびっくりしちゃったんでしょうね。
――触れるだけで激痛が走るわけですよね。
上野 でも、マメごときであきらめられる夢ではないですから。もう気持ちですよね。100パーセント、アドレナリン。皮膚が赤くなっているのを見ると意識してしまうので、ロージン(滑り上めの粉)をつけて白くして誤魔化したりしていたんです。
――決勝戦は、この試合で投げたら選手生命が終わると言われても投げていましたか。
上野 投げますね。十何年間の思いがありましたから。ありがちな言い方ですけど、決勝戦はまさに夢にまでみた舞台だったんです。腕が折れようが、何しようが、この場所だけは譲れないという思いがありました。
――それがオリンピックなんですね。
上野 本当にそう思います。413球投げられたのも、オリンピックだから。あれをもう一度やれって言われたら無理だと思います。
「人前で泣くことはタブーだった」
――その頃、小学生時代に1日3連投したこともあるという報道もありましたが。