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誰もが騙された“天才”小野伸二のパスに反応できる男…レッズ一筋・平川忠亮、名スカウトがメモに残した評価とは【7.22引退試合】
posted2021/07/22 06:00
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph by
J.LEAGUE
25年前のゴールは、鮮烈に記憶に残っている。
エディオンスタジアム広島がまだ広島ビッグアーチの愛称で親しまれていた時代だ。当時、浦和レッズのスカウトを務めていた宮崎義正氏(現・三菱重工浦和レッズレディース部長)は、大きな会場から少し離れた広島修道大のグラウンドに足を運んでいた。
お目当ては、1996年のひろしま国体に出場していた静岡県選抜の小野伸二(現・コンサドーレ札幌)。すでに天才と呼ばれていた清水商高(現・清水桜が丘高)2年生は、センスあふれるパスワークでプロ関係者たちをうならせていたという。いまでもすぐに頭に浮かぶラストパスがある。
「確か2回戦か、3回戦。相手は大阪府選抜だったかな。(小野)伸二が中盤でボールを持っていて、左サイドを走っていた高原直泰(元日本代表、当時・清水東高)にパスを出すかと思ったときでした。まさかのアウトサイドキックで、逆サイドにパスを出したんですよ。ピッチの外から見ている僕らまでみんな見事に騙されました」
さらに驚いたのは、予想もできないパスが来ることを信じ、右サイドを駆け上がっている選手がいたことだ。同じ清水商高2年生で、国体のメンバーに選ばれていた平川忠亮である。
「すごいところに、すごいタイミングで走っているなと思いました。しっかりゴールも決めましたし、あのインパクトは強烈でした。96年の静岡県選抜には伸二と高原がいましたけど、平川も存在感がありましたよ」
メモに残る平川への評価
Jクラブで長く働くスカウト陣の中でも、宮崎氏は丁寧にメモを取ることで有名だった。昔のノートをペラペラとめくっていれば、記憶がふとよみがえってくる。特別な選手には、特記事項がある。
「平川は、数え上げたら切りがないくらいあります。魅力はスピードでした。伸二のパスで裏へ抜けていく速さは目を見張りました。プレーだけではなく、人間的にもしっかりしていました。レッズが大事にしているところです。一見すると、ヤンチャに見えますが、中身は真面目。清商で鍛えられていたこともあり、忍耐強い選手でした。少しのことでへそを曲げたり、不貞腐れた態度は一切見せなかった。第三者を思いやれる心も持っていたと思います」