オリンピックPRESSBACK NUMBER

〈五輪直前に2つの日本新〉田中希実21歳の“父コーチ”が明かす“親子の師弟関係”「実はかなり大変です(苦笑)」 

text by

佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

PROFILE

photograph byAFLO

posted2021/07/20 11:04

〈五輪直前に2つの日本新〉田中希実21歳の“父コーチ”が明かす“親子の師弟関係”「実はかなり大変です(苦笑)」<Number Web> photograph by AFLO

東京五輪前最後のレース「ホクレン・ディスタンスチャレンジ2021」で2つの日本新記録を出した田中希実

「昨年は、練習で言われたことを素直に受け入れていた部分があるんですけど、今年に入ってからは一旦受け入れつつも自分が納得しなければ、『どういうこと?』と聞き返してくることが増えたんです」

 田中から疑問や意見が増えたことは、経験値が増して競技者として成熟しつつあることの表れでもある。そして、そこからさらにぶつかりあって答えを探していく作業は、ともに目標に向かって「成長したい」と考えているからだろう。

「率直に自分の想い、レースのこと、疑問に思うこと、自分ができないことに対して、『なぜ?』という問いかけをしてくるので、それに対して自分が答えを探したり、一緒に考えたりして、作り上げながら成長していくスタイルが今年の春から徐々に形になってきました。6月からはそれぞれの立場をより理解できるようになったというか、認める感じになりましたね。まあ、たまに言いたいことを言うのは、本人にとってはいいリフレッシュになっていると思います(笑)」

2つの日本新でも「もっと上を狙っていきたい」

 田中コーチは「子供から教えられることも増えました」と言うが、それは娘であり、選手である田中が成長している証でもある。今回の日本記録は素晴らしい走りだったが、田中コーチは、まだ過程としてしかとらえていない。

「1500mでいえば、4分の壁を越えることを考えています。周囲からバカにされてもチャレンジしないと先には進まないですし、できなくてもチャレンジすることで近づいていける。目標がないと成長もないですからね」

 日本選手権最終日、田中は800m決勝で3位。その疲労を抱えたまま、30分後には5000mを走り、3位に入った。常識に縛られず、短時間で2レースをこなした。未知の世界に挑む人は、いつの時代も他人の目には奇異に映るケースが多い。だが今回のレース後、田中本人に話を聞いてみるとそんな視線を気にせず、タイムにも未知の世界にも貪欲であることがよく分かる。

「1500mの自己ベストを出すなら一気に2秒とか3秒を縮めたいと思っていたんです。今回は1秒の更新で、このタイミングで自己ベストが出たのはうれしいですけど、タイム自体はもっと上を狙っていきたいと思います」

 このタイムで田中は、1500mの東京五輪参加標準記録(4分4秒20)と2022年7月オレゴン世界陸上選手権の参加標準記録(東京五輪と同タイム)を突破した。

 田中コーチは、「日本選手権で参加標準記録を突破したかったが」と前置きした上で、こう語る。

「今回、参加標準記録を突破できたことで、堂々と五輪代表だと言えるところにきました。1500mの五輪代表が決まった時は、もちろん嬉しかったんですけど、ランキングで拾われてモヤモヤした気持ちもありました。自分たちからすると裏技に近い形で選ばれたと思っていたんです。でも、これで世界の選手と同じラインに立てた。ここからは、いかに世界と戦うのかというところに挑戦していきます」

【次ページ】 世界と戦うために「4分の壁」を突き破れるか

BACK 1 2 3 4 NEXT
田中希実
新谷仁美
オリンピック・パラリンピック
東京五輪

陸上の前後の記事

ページトップ