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「プロ野球もJも有観客なのになぜ五輪は無観客?」「スポーツが勇気を与える、は大嫌い」水球日本代表監督の本音を聞いた
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byAFLO
posted2021/07/19 17:07
水球日本代表。6月の水球ワールドリーグ、フランス戦で
大本 中止の可能性の方が高いんだろうなと思っていました。開催を信じて、というよりは、なくなるんだろうな、と。だから五輪のためにというよりは、自分たちのために最低限、体を動かしておこうという感じでしたね。五輪の存在はとてつもなく大きいけど、何も、そのためだけにやっているわけでもない。五輪がなくなっても、ほとんどの選手は水球を続けるわけですから。
――昨年、夏の甲子園が中止になったとき、指導者は口々に「甲子園がすべてではない」と言ったんです。ただ、どこのチームも「代わりの何か」をなかなか見つけられずにいた。でも、それを見つけられたチームは本当に強かったし、楽しそうでした。
大本 甲子園と五輪を簡単に比べることはできないと思うのですが、五輪がなくなったらやる意味がないという選手は、最終的に五輪にたどり着けていなかったんじゃないかな。やっぱり原点は好きだからやってるんですよ。そこに気づけたことがいちばんの収穫かもしれない。私が監督だからかもしれないけど、途中、「オリンピックがなくなった方がいいかもしれない」って本気で思ったんですよ。代表監督になってからというもの、常に勝ち負けに縛られていて、あんなに自分と、あるいは水球と向き合えたこと、なかったですから。
ただ、妻には「そんなことマスコミに話したら絶対ダメよ」って釘を刺されてましたけど。けど、今、言っちゃいましたね。選手もそれに近い心境になっていたんじゃないかな。もし今、土壇場でオリンピックが中止になっても、彼らはもう泣いたりしないと思いますよ。恨みつらみを並べることなく、受け入れてくれると思う。それぐらい精神的にはタフになった。1年延期の決定がショック過ぎましたからね。あれを超えるショックなんて、もうないでしょう。
プロ野球もJも有観客なのになぜ五輪は無観客?
――1都3県(神奈川、埼玉、千葉)に加えて、北海道、福島も無観客で開催されることが決まりました。水球の会場も東京都内にあるので、無観客ということになりそうです。
大本 もちろん、入ってもらいたかった。大きなホームアドバンテージになりますから。審判も人間なので、声援に左右される。その利点を生かせなくなってしまいましたね。あと、水球は、こんなときでないとなかなか観てもらえない。1964年の東京五輪以来となる最大のプレゼンの場を失ってしまったようなものです。あとは、日本に来てくれた外国のチームの方に申し訳ない気持ちもあります。会場を満杯にして迎えるというのは、主催者としては、最大の「おもてなし」ですからね。ところで、プロ野球やJリーグはお客さんを入れられて、オリンピックは入れられない理由は何なんですか?