――合理的に、その理由を説明できる人はいないのではないでしょうか……。それにしましても、いろんな不満が、見えやすい、わかりやすいオリンピックに集中してしまった気がします。冷静に考えたら同列で語るべきではないと思うのですが、運動会も、修学旅行も、卒業式もできないのに、なんで五輪はできるんだ、と。政権やコロナを敵視するのはわかるんです。でも、五輪は本来、そういう対象ではないはず。なのに、五輪は特別扱いや愚策の象徴のようになってしまった。

「スポーツが勇気を与える、みたいな言い方は大嫌い」

大本　スポーツは遊びぐらいにしか思われてないということなんでしょうね。私はスポーツが勇気を与える、みたいな言い方は大嫌い。スポーツは、そんなに大仰なものじゃないですよ。所詮、遊び。その解釈でいいと思う。でもね、大人が本気で遊ぶことでしか表現できないもの、伝えることのできないものって、あると思うんですよ。

――メジャーで活躍している大谷（翔平）選手がいい例ですよね。

大本　彼には今、多くのアスリートが救われたと思っているんじゃないかな。これから五輪に挑もうとしている日本の選手たちは正直なところ、迷ってると思うんです。こんな空気の中、「不要不急」だと言われるスポーツをやっていていいのかな、と。本当は喜んで欲しいのに、逆のことをしているんじゃないのかな、と。でも大谷選手を見ていると、ただ、好きなことを全力でやっているだけじゃないですか。スポーツで世界を勇気付けようなんて雰囲気は微塵も感じられない。それなのに、こんなにも多くの人が心を揺さぶられている。僕らも開催できるのなら、まずは自分たちが思いっきり楽しめばいい。それが最大の恩返しにもなる。

――今はまだ開催を疑問視する声も多いようですが、大会が終わったら、きっと多くの人が「やっぱり、やってよかったね」となっていると思うのですが……。

大本監督（2016年撮影）　©BUNGEISHUNJU

大本　水球は予選リーグを突破して、決勝トーナメントまでいかないとテレビ中継はしてもらえないと思うんですよ。だったら、そこまで行くしかないですね。僕らはコロナの影響で1年半、対外試合ができなかった。シャドーボクシングばっかりやっていて、スパーリングなしで、いきなりリングに上がるようなもの。でも、そのぶっつけ本番感がいい方に出てくれないかなと思っているんですよ。

――水球は日本だけ、まったく違った戦い方をするんですよね。ノーガードで、ひたすら攻めまくる。なので、普通の試合は得点が入っても10点前後なのに、日本戦だけ「22―20」とかになる。日本の団体競技は、ふた言目には「決定力不足」と言われますけど、大本ジャパンの辞書にそんな文字はない。日本男子の水球を知らないなんて、もったいないですよ。

大本　世界大会で封印し続けている秘策があるんです。本番では、勝ち負けはわからないですけど、とにかくおもしろい試合をお見せすることだけは約束します。

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