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堂安律に「チームを背負う」役割を求め、「順調なときほど本大会で…」苦い経験を知る吉田麻也の“強いメッセージ”〈スペイン戦→五輪へ〉
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byKyodo News
posted2021/07/18 17:04
堂安律の先制ゴールを祝福する吉田麻也だが、その視線の鋭さに慢心は微塵も感じさせない
好調の堂安に対して吉田が掛けていた期待
それにしても、堂安の好調ぶりが頼もしい。
これで6月シリーズから4試合連続5ゴールとなった。
PSVから20年9月に期限付き移籍を果たし、自分のプレーを取り戻したビーレフェルトでの充実を代表チームにも持ち込んでいる。「理想の10番像からは程遠い」と自己評価は辛口で、実際ボールを失う機会も少なくなかったが、ゴール前に入っていく感覚、ボールを呼び込む感覚をモノにしたのは確かだろう。
スペイン戦の前日、吉田は堂安に対して、こんな期待を掛けていた。
「チームの中心で、チームを背負うような選手になるには、大事な試合で結果を出せるかどうか。特に本田(圭佑)さんは、ここぞというときに力を出す能力が非常に秀でていたと思うので。律とかにはよく話しますけど、そういう選手になってほしいなと」
堂安がどんな準備やイメージトレーニングを積んで本番を迎えるのか、そして、本番でもこの勝負強さを発揮できるのかどうか、興味深い。
ブラジルW杯で味わった惨敗の苦い経験
後半は前半以上に一方的な展開となり、78分に同点ゴールを許したが、メンバーを大きく替えたのだから、仕方のない面もある。
プレー時間を制限してレギュラー組のコンディションを調整するとともに、サブ組の試合勘が衰えないようにすることは、本番前最後の試合において、勝敗以上に大事なミッションだ。
試合後、キャプテンの吉田は自身に言い聞かせるように、チームメイトにメッセージを届けるように、こう語った。
「この試合に一喜一憂せずに、やるべきことに集中して、もう一回引き締めて本大会に臨みたい」
むろん、勝って兜の緒を締めよ、は常套句ではあるが、吉田の言葉には重みがある。ほかでもない吉田自身が苦い経験を味わっているからだ。
チーム作りにおいて概ね右肩上がりの成長曲線を描き、本番直前のテストマッチも3戦全勝で臨んだブラジルW杯での惨敗――。
今回の合宿が始まる前、吉田はすでにこんなふうに危惧していた。