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《志半ばで倒れた仲間に捧げたEURO優勝》視聴占拠率は83.6%! イタリア53年ぶりの熱狂を生んだアッズーリの“家族のような絆”
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/07/19 11:01
53年ぶりの欧州王者に輝いたイタリア。その熱狂はしばらく収まりそうにない
イタリア代表のベテラン主将ジョルジョ・キエッリーニと長年コンビを組むDFレオナルド・ボヌッチらは、いずれの3試合にも屈辱的なスコアで敗れた。苦い記憶と傷はまだ癒えていない。第2GKサルバトーレ・シリグも代表コーチングスタッフのダニエレ・デロッシも、キエフでのEURO2012決勝で飲んだ涙の味を忘れていない。
だから、55年ぶりにメジャー大会決勝へ進出したイングランド代表と周辺が浮かれているように見えるのは当然だった。
開始2分で失点しても慌てる必要はなかった。他でもない「決勝戦」の戦い方を彼らは知っていたからだ。
フランスもドイツもポルトガルも早い段階でトーナメントから消えた。勝機を逃さない嗅覚。それが、イタリアがイタリアたる由縁だ。
主将キエッリーニは、延長後半96分にサイドを突破しかけたFWサカの襟首をつかんだ。いぶし銀のタクティカル・ファウル。レッドカードにはならない。
102分の自陣ゴール前の攻防は何度でも見返したい。右からボールを持って侵入してきたイングランドFWジャック・グリーリッシュの動きを見て、右SBのジョバンニ・ディロレンツォが対応する。抜こうとする攻め手を読むDFコンビはピタリと同じ動きでスライドしながらグリーリッシュに寄せ、シュートもパスも封じて完全にはめた。アーティスティックスイミングの金メダル演技のように完璧な、守備の芸術だった。
「この優勝をダビデ・アストーリに捧げます」
大統領官邸での祝勝報告で、主将は「この優勝をダビデ・アストーリに捧げます」と話した。マンチーニは目頭を抑えた。
2017年秋のロシアW杯予選プレーオフでともに悔し涙にくれたアストーリは、翌年3月に突然の心臓発作で天に上った。かけがえのないアッズーリの仲間の一人だった。
彼らは皆、国歌「マメーリ賛歌」の歌う“イタリアの兄弟たち”だった。
外に出れば、家々のベランダに三色旗がたなびいている。
いつもなら大会終了とともに早々としまわれるはずが、きっと今年はもうしばらくの間、青い空の下でトリコローレの旗がはためいているだろう。
暑いので「涼みがてら、バールへジェラートを食べに行こう」と我が家の小さな兄弟を誘う。彼らは2つ返事でついてくる。
「僕ら欧州チャンピオンです! ジェラートと選手コレクションシール、ください!」
イタリアは長い間忘れていた、欧州王者の夏を取り戻している。