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《志半ばで倒れた仲間に捧げたEURO優勝》視聴占拠率は83.6%! イタリア53年ぶりの熱狂を生んだアッズーリの“家族のような絆”
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/07/19 11:01
53年ぶりの欧州王者に輝いたイタリア。その熱狂はしばらく収まりそうにない
スピナッツォーラは目に涙を浮かべて「グラツィエ」
今大会のアッズーリは、家族のように強い絆で結ばれている。
胸を打たれたのは、ベルギー戦で左アキレス腱を断裂したDFレオナルド・スピナッツォーラが、手術のために代表を一時去る場面だ。代表チームが昼食を中断して、彼に向き合った。
のちに大会ベスト11に選出されたほどの活躍ぶりから一転、無念の離脱だった。チームメイトたち一人ひとりが松葉杖の左サイドバックを抱擁し、耳元で何事かささやいて送り出した。今なら彼らが何と言っていたのか、誰にでも推測できるだろう。
“絶対に決勝まで行くから、おまえもロンドンに来い”
“おまえを欧州王者にしてやる”
“いっしょに優勝するんだ”
目に涙を浮かべたスピナッツォーラは「グラツィエ(ありがとう)」と言って、場を去った。
連盟のSNSアカウントで公開された昼食会の動画を見て、撮影されたのは過去に何度か取材したことがあるナショナル・トレセンの大食堂だとわかった。初めて行ったのは、ドイツW杯でアッズーリが優勝した後だった。
トレセンで働く人たちは、技術部門ディレクターから食堂の給仕長にいたるまで「優勝チームを支えた自分たちも世界チャンピオンだ」という誇りをもって働いていた。陽気な笑顔の中にプライドがあった。
代表に選ばれた仲間スピナッツォーラは、国を背負う戦友だった。志半ばで倒れた彼の無念を晴らすのだ、という思いに国中が共感した。
ボヌッチの妻は確信をもって夫に言った
2021年のアッズーリは、過去の代表と少し違っている。
昨季セリエAの最終節が行われたのが5月23日で、翌24日にはサルデーニャ島で大会前の代表合宿が始まった。
コロナ禍の影響で過密日程のシーズンを終えたばかりで、すぐに代表活動とあれば選手にも家族にも不満があって然るべきだ。
マンチーニは“話のわかる兄貴”だった。粋な計らいによって、合宿初期に選手たちの家族をサルデーニャ島に招き、ともに過ごす時間を与えた。
夫人たちやパートナーはさぞ喜んだろうと思いきや、驚くことに選手たちはいつ何時もチームメイトと離れようとしなかったのだという。
ボヌッチの妻は苦笑いしつつ、確信をもって夫に言った。
「これだけ結びつきが強いんですもの。あなたたち、今度の大会で優勝できるわ」
家族がそばにいてリラックスしながらも、来るミッションのために仲間と意識を共有する感覚を得ていた。ロンドンでの戴冠後、ボヌッチは「あの合宿で、俺たちの中で何かのスイッチが入った」と明かした。