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「二刀流をファンも見たい、そして個人的にも見たい」 大谷翔平の「DH・投手」特例を実現させた"2人の策士"《MLBオールスター》
text by
四竈衛Mamoru Shikama
photograph byGetty Images
posted2021/07/16 11:04
7月12日、ア・リーグのキャッシュ監督(左)とともに会見に登場した大谷。キャッシュ監督はMLB機構に頼み、大谷を2人の選手として起用することの許可を得た
「彼は投手としても選出された。これはファンが見たいと望んでいることであり、私も個人的に見たいと思っている」
最終決断にいたるまでには、キャッシュ監督とエンゼルスのジョー・マドン監督との間で、綿密な話し合いが繰り返されてきた。大谷の「二刀流」での出場に関して、マドン監督はこれまで「大谷の意思次第」との姿勢を明かしていた。その一方で、故障のリスクは最低限に減らしたい。DHとして数打席立った後、DHを解除して救援することも可能だった。だが、試合途中でブルペンに向かう場合、準備不足のまま、登板することにもなりかねない。日頃から、戦術面でもユニークな発想で奇策を繰り出してきた策士2人の行き着いた結論が、この「特別ルール」だった。
「翔平に限らず、我々は選手を守らなくてはいけない。この方法であれば、エンゼルスでもやってきたことだから」(キャッシュ監督)
大谷が投打でフル稼働する姿をファンに披露するために、機構側も特例を認め、「二刀流」での同時出場が決まった。
第1シードとして出場したホームランダービーの第1ラウンドで、大谷はフアン・ソト(ナショナルズ)と熱戦を繰り広げた末、再延長で敗れた。
「だいぶ疲れました。僕はいっぱいいっぱいだったので(最後は)打てないだろうなと思っていました」
勝利こそ逃したものの、その表情はいつも以上に晴れやかだった。
また来られるように
翌日のオールスター本番では、打者としては2打数無安打に終わったものの、投手として先発し、1回無安打無失点。全投手中、最速となる時速100.2マイル(約161.2キロ)をマークし、大観衆のどよめきを誘った。
終わってみれば、2019年の田中将大(ヤンキース)以来、日本人投手としては2人目となる勝利投手のオマケまで付いた。
「初めての経験なので……『また来られるように』というか。そう思わせてくれる素晴らしい経験だったなと思います」
グラウンド上では一挙手一投足が複数のテレビカメラに追われ、ホームランダービーから試合まで、大谷の名前がアナウンスされるたびに、だれよりも大きな歓声と拍手を浴びた。
「全体的に、球場入りから、試合から……ホームランダービーもそうですし、こういう雰囲気っていうのはなかなかシーズン中もないと思うので。本当に野球が好きな人たちがこれだけ集まってくれて。すごくいい雰囲気だったなと思います」
メジャー4年目で、初めてたどり着いた夢舞台。
立派に主役を務めきった大谷は、素直に「疲れました」と話す一方で、笑みを絶やすことなく、何度も何度も「楽しかったです」と繰り返していた。