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「もうあなたじゃないよ、オレなんだよ」“裏切り”の果てに、新三冠王者ジェイク・リーは“恩人”諏訪魔を超えるか?
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2021/07/18 11:00
6月26日、大田区総合体育館で全日本プロレスの三冠ヘビー級新王者となったジェイク・リー
“裏切り”にも“造反”にも見えたが、ただの悪役ではない
リーは192センチ、115キロの32歳。2011年に全日本プロレスに入団して8月にデビューしたが、わずか2カ月で引退した過去がある。2013年には総合格闘技でも戦っているが、パッとしなかった。
全日本プロレスへの復帰は2015年5月だった。しかしケガに悩まされたこともあり、“いいんだけれど、一気に駆け上がれない”、そんな雰囲気がリーにはあった。タッグでは野村直矢と組んだ世界タッグ王座、岩本煌史と組んだアジアタッグ王座があるが、リーは本当はシングルのタイトルが欲しかった。
そんなリーに転機が訪れる。今年2月23日、「TOTAL ECLIPSE」なる名前を引っ提げて「勝ったものが正義だ」と宣言したのだ。それは“裏切り”にも“造反”にも見えたが、ただの悪役ではない。
リーは大きくて全日本プロレスらしいレスラーだ。鶴田のようにバックドロップを使い、ヒザでの胃袋破り(キッチンシンク)も使う。滞空時間の長い垂直落下式のブレーンバスターもいい。リーはこれを「D4C」と呼んでいるが、ディック・マードックやキラー・カール・コックスのように高々とリフトアップして止める。「手段は選ばない」と言うが、リーはリングできちんと決着をつける正統派だ。
「オレはチャレンジし続けた。こんな状況下でもだ」
5月3日のチャンピオン・カーニバルでは宮原健斗を破って初優勝。久しぶりの三冠王座挑戦にこぎつけた。
「人生はチャレンジだ。どんな結果であろうと、オレはチャレンジし続けた。こんな状況下でもだ。オレはこの結果を導き出した。合法なんてくそくらえ。結果を考えてから行動しろ。見てる奴らもそうだ。落ち込んでんじゃねえよ、こんな情勢で。どんな手使ってもいい。ああ、犯罪だけは犯すなよ」
王者リーへの次期挑戦者には、芦野祥太郎と石川修司が名乗りを上げた。今年のチャンピオン・カーニバルで石川に負けているリーとしても、「個人的には石川とやりたい」と思っていた。
だが、またしても、コロナが全日本を襲う。今度は石川がコロナに感染してしまったことで、11日に大阪で予定されていた芦野と石川の次期挑戦者決定戦が流れたのだ。諏訪魔は同日に復帰してきたが、まだタイトルマッチを戦える状態ではない。それに不完全な諏訪魔を倒したところで、リーの物語は先には進まない。リーは芦野、石川と順を踏んで、その先の諏訪魔に行きつくのだろう。
「変更だったり延期だったりいろいろあったが、オレがそんなもんで止まるはずがない。オレの意見、主義主張に反論したいヤツはいっぱいいるはずだ。オレにオマエの主義主張をぶつけて来い。そうすれば50周年はもっと華々しくなるよ」