濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“元アイドル対決”で「全部さらけ出す」 中野たむが“白いベルト”をかけた上谷沙弥戦で“ビンタ合戦”に込めた思い
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2021/07/13 17:01
7.4横浜大会にて、上谷沙弥に渾身のエルボーを放つ中野たむ
「あらためてウナギに出会えてよかったと思ったし、ウナギを相手にタイトルマッチができてよかった。自分にこんな感情があるなんて、今までは気づかなかったです。私にとって、これが3つ目のベルト。フューチャー王座ということにも意味があると思ってます。プロレスを始めたのが遅い、30代の私たちがベルトを争って、私が“未来のベルト”を巻いたんです。それは、いつ、何を始めても遅いことはないんだっていう証明だと思ってます。いくつになっても、未来は自分の手で作ることができる。それを同年代の女性たちにも知ってほしくて」
「コズエンはみんなどんくさいんですよ。でも……」
横浜大会の2日後、7月6日の後楽園ホール大会では、コズミック・エンジェルズがメインイベントで6人タッグ王座の防衛に成功した。V7、最多防衛記録更新だ。白いベルト、フューチャー、6人タッグ。彼女たち3人でスターダムのタイトル7つのうち3つを持っている。ベルトの数で言えば、ジュリアや朱里たちのユニット「ドンナ・デル・モンド」と並ぶ“最大勢力”だ。たむは言う。
「コズエン(コズミック・エンジェルズ)はみんなどんくさいんですよ。ちゃんみなもウナギも選手としてはできないことが多いし、技術もスタミナもまだまだ。でも、それを補って余りある気持ちがある。人生経験が多いですからね。これまでだっていろんなことを乗り越えてきてる。それをリングで出してるんです」
後楽園ホールのインタビュースペースで、白川は「コズエンのあり方が変わった」と語っている。
「遠慮なくお互い前に行きたいという気持ちを、前は内に秘めてました。今はそれをぶつけ合えるようになった」
それを聞いてたむもウナギも涙ぐんでいた。白川はたむからもらった言葉を大事にしたいとも。それはこんな言葉だ。
「自分の気持ちをさらけ出せる、お互いを高め合えるライバルが身近にいるのは、凄く幸せなこと。それを大事にしてほしい」
彼女が張り手で頬を腫らす時
プロレスラーが相手を殴り、蹴るのは相手が憎いから、嫌いだからというだけではない。分かり合うため、気持ちを伝え合うために攻撃することもある。分かり合うためにこそ、ドロドロした部分をさらけ出さなければいけないことも。そうした複雑さも、プロレスならではの“リアルな感情表現”ではないか。
「プロレスとは何かって聞かれたら、これまでは“人生”って答えてたんです。試合には選手の人生が全部出るから。でも最近凄く思うのは“愛”かなって。プロレスは愛のキャッチボールなのかもしれない」
たむらしい言葉だ。彼女が張り手で頬を腫らす時、リングには愛が溢れているのである。
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