お互いの地力を確かめ合うようなグラウンド戦から始まり、徐々に熱量を高めていった。上谷は多彩な飛び技、たむは蹴りで主導権を掴みにかかる。その中で展開の軸となったのは、やはり“打ち合い”だ。エルボー、そして張り手。お互いの手を握り合ったまま、距離を取って逃げることができない状態で打ち合う場面もあった。

たむ、上谷ともに数えきれないほどの打撃を繰り出した©STARDOM

　片手でつながり、もう一方の手で殴り合う。2人の関係性そのもののような攻防だった。さらに上谷は両手で連打、いや乱打か。何かに取り憑かれたように放つ張り手と空中殺法のコントラストは、上谷にしか描くことができないものだった。

ビンタに「本音」を込めている

　気持ちを確かめ合い、ぶつけ合って、最後はたむがトワイライト・ドリーム（変形タイガースープレックス）で3カウントを奪った。

「今まで見たことがない上谷でした」

　試合後のたむはそうコメントした。

「ビックリしました。上谷はあまりビンタとか打撃をやる選手じゃないと思ってたので」

　一方、上谷は泣きながら「次こそ絶対にベルトを巻きます」と誓った。しかし心の中に残ったのは悔しさだけではなかった。

「（たむは）前までは本当に雲の上の存在で。でも今日は真正面からぶつかって、強さの中にも愛とか厳しさとか優しさも感じました。本当にたむさんに出会えてよかったです。幸せな時間でした」

試合の軸となったのは、エルボー、張り手の“打ち合い”©STARDOM

　あらためて、たむに「張り手、ビンタとはどんな技か」を聞いた。

「私の中では一番気持ちが伝わるなって思います。私は言葉を使うのが下手なので、言葉では伝えきれない本音を込めているつもりです。でも今日は初めての感覚もありましたね。上谷はビンタとかやり慣れてないから、最初は弱かったんです。『これなら全然大丈夫だな』って。それが打ち合ううちにどんどん強くなって、最後はアゴがズレそうになりました。自分の気持ちを出すのに比例して、ビンタも強くなっていったんだと思います」

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