濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“元アイドル対決”で「全部さらけ出す」 中野たむが“白いベルト”をかけた上谷沙弥戦で“ビンタ合戦”に込めた思い
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2021/07/13 17:01
7.4横浜大会にて、上谷沙弥に渾身のエルボーを放つ中野たむ
「上谷はスターになる人間。正直言うと、ずっと怖さもありました。この人がプロレスラーになったら怖い、いつか私より上に行くだろうなって。でも私だってスターになりたい。まだ負けられないんです。この白いベルトをかけて闘いたい相手もいる。そのためにSTARS(以前所属していたユニット)を抜けました。それに、今の上谷では白いベルトを巻くことはできないとも思ってます」
たむはワンダー・オブ・スターダムの白いベルトを「呪いのベルト」と呼ぶ。赤いベルトは最高峰、団体トップの実力者の証だ。対して白いベルトは選手同士のストーリー、感情のぶつかり合い重視。ベルトを獲得した試合の相手、ジュリアとは長く抗争を展開し、最終的には「敗者髪切りマッチ」になった。初防衛戦で闘ったなつぽいは、デビューした団体アクトレスガールズの先輩。どちらに対しても「負けたくない」という思いを出しやすいから、激しい試合になった。
だが上谷はそういう相手ではなかった。自慢の後輩に超えられることを覚悟している部分すらある。といって、呪いのベルトをかける以上は「清々しい真っ向勝負」だけで終わらせたくもなかった。
「今の上谷にはこのベルトは巻けない。自分の弱さから逃げてるから。劣等感、嫉妬、悲しみ、憎悪。そういう自分自身の汚い感情と向き合って、やっと巻けるのがこのベルトです。だから今の上谷には巻くことができません」
「私相手になら、ドロドロしたものも出せるでしょ」
タイトルマッチ調印式で、たむは上谷を挑発した。体格や身体能力、センスは誰もが認めるところ。しかしそれだけでは白いベルトのチャンピオンにはなれないのだと。
「やっぱり、全部さらけ出すのがプロレスラーだと思うので。普段の上谷は天然っていうんですかね、フワフワした感じです。でも絶対にそれだけじゃないと思うんですよ、人間って。しかもアイドルを経験してるんですから。私もそうだったから分かるんです。上谷はアイドルやって成功できなかった、夢破れて挫折した。それは泥水すすってきてるってことですから。汚い感情だって持ってますよ。もっと人間味のある試合ができるはずなんです。私相手になら、ドロドロしたものも出せるでしょって思ってます。私にじゃなきゃ出せないものがあるって」