進取の将棋BACK NUMBER
「羽生善治九段から“あの芸をやっていたね”って」中村太地七段&佐藤紳哉七段が知る“普段の優しい姿”って?
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph byTadashi Shirasawa
posted2021/06/29 11:06
2018年の朝日杯将棋オープンより。羽生善治九段は様々な人や物事に心を配っているという
紳哉 そうそうそう。「テレビ観たよ」とか、「また"あの芸"をやっていたね」みたいな。観ててくれているんだと嬉しくなると同時に、観ていただかなくてもいいのにと思うことも(笑)。羽生九段の前ではそんなにカツラ芸を……してないというわけでもないんだけど、どう返事すればいいのかと、少し恥ずかしい気持ちになったりもしますね。普段はいい意味で大スターという空気感を出しているわけではなく、とても優しく接してくれるんですよ。
中村 その一方で、対局の時とは全く違いますよね。やっぱりオーラが出るようなというか……すごい集中力で、鬼気迫る感じです。その一方で盤を離れたら、羽生先生が何十年にもわたってそういった行動を取られてきた。そしてなおかつ、羽生先生が人格者だからこそ将棋界が注目されてきた部分があります。1人の棋士として、羽生先生が将棋界のトップにいてくださって本当によかったなというのは偽らざる思いです。
羽生九段から受けた「期待」とは
――その羽生九段とチームを組む中で、ABEMAトーナメントはフィッシャールール(※1手さすごとに一定の時間が増える。チェスなどで用いられることが多く、同トーナメントでは持ち時間5分、1手指すごとに5秒増える)という超早指し戦に臨んでいます。
紳哉 フィッシャールールって普段の対局では絶対ないことで。勝ちの局面からたった1分後に自分が投了してるんですよ。その急転直下ぶりが怖いなって思いますね。そう言えば太地先生、豊島竜王との対局では、終盤までとてもスリリングな展開だったよね?
中村 持ち時間がない中で何かを判断、決断しなければならないのですが、5秒という感覚は……駒を動かすだけで数秒かかる中で、極端に言えば何が何だかわからないまま駒を進めている感覚でした。でもその中でやっぱり勝ち負けが決まるわけで、何らかの良し悪しが絡んでいるとは思うんですが、その取捨選択が難しいところです。
豊島竜王の懐の深さを感じた瞬間
紳哉 対局自体は自ら踏み込んでいった。
中村 そうですね、羽生先生からも「アグレッシブな展開を期待しています」という言葉があったので、積極的にいこうと。豊島竜王との一局は結構うまく指せてたように思いました。最後に追い込めそうなところまで攻めて、相手としては怖いだろうなと思ったんですけど……豊島竜王の懐が深く、時間がない中でも見切られて負かされた。やはりさすがだなと感心してしまった、というのが正直な感想でしょうか。
紳哉 最後の豊島竜王の手は、端から見てても本当にビックリしたというか。すごい見切りでしたね。