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「こんなに苦しかったんだ、痛かったんだ」 瀬古利彦が語る、34歳で世を去った長男・昴さんがたどった“がんマラソン”の足跡
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by瀬古利彦提供
posted2021/07/03 11:02
21年春に他界した瀬古昴さん(右)は亡くなるひと月ほど前に自身の闘病を綴った書籍を世に送り出した
船を下りるときには背中に謎の発疹が
地球一周の船旅から船を下りるときには、背中に謎の発疹ができはじめていた。後に判明することになる、ホジキンリンパ腫(悪性のがん)による症状だった。そこから「ジェットコースターのような日々」と表現するように、昴さんの人生はがんに翻弄されていく。激しい痛み、治療、そして入院。症状が治まり退院しても、またがんが再発してしまう。闘病の様子は前述の本に詳しいが、昴さんの真骨頂はどんなに辛い状況でも前向きさとユーモアを忘れないことだった。
昴さんは本の中でチャップリンの『人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見ると喜劇だ』という言葉を引用し、こんな風に私見を述べている。
「辛い経験を笑いにできるということは、『その経験を乗り越えた』と言い換えられたとも思うのです。(中略)僕たちの世代(AYA世代、15歳から39歳くらいまでの人)には、学業、仕事、恋愛、結婚などで、高齢になってからのがんとは違った特有の悩みがありますから。そんな、僕と同世代のみなさまに、この本が届いて、経験をシェアできたら嬉しいです」
「よっぽど伝えたいことがあったんだと思う」
だからこそ、闘病中の悩みについても包み隠さず記した。もしかすると、強い怒りの感情が免疫力を下げさせ、自分や周りを傷つけたのではなかったか――。体調を崩した初期の段階で手術を勧められていたのに、なぜ病院に行くことを拒んでしまったのか――。自らの経験を学びの参考書にしてほしいという、彼の一途な思いが伝わってくる。
「この本を昴が書き始めたのは1年半ほど前かな。一番体調が良くないときですからね。よく書けたなと思います。普通は病気でウンウン唸っているときに文章を書こうなんて思わないよね。だからよっぽど伝えたいことがあったんだと思う。でも、書いている間は楽しそうで、痛みや苦しみを忘れられる時間でもあったんだろうね」