“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「自分は日本人ではない?」タビナス・ジェファーソンが高2で知らされたルーツ…日本代表への夢を絶って選んだフィリピン代表のユニフォーム
posted2021/06/16 11:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
J.LEAGUE
決して簡単な決断ではなかった。
2021年5月21日、DFタビナス・ジェファーソンのフィリピン代表選出が発表された。同時に、タビナスは日本代表になるという夢を断念することになった。
J2水戸ホーリーホックで若きDFリーダーとしてプレーする22歳は、フィリピン人の母とガーナ人の父を持つ。母親とはタガログ語で、父親とは英語で話す一方で、家の外に出れば常に日本語でコミュニケーションを取る。小さい頃からこの毎日がタビナスにとっては当たり前だった。
ADVERTISEMENT
「小学校に入るまではみんな2つくらい言語を話せるものだと思っていたら、同じハーフの子でも日本語しか話せないことに衝撃でしたね」
小学生になると、徐々に自分が周りの人たちと違うことに気づく機会が増えた。肌の色が黒いことや、漢字が入っていない自分の名前に違和感はあったが、家族は円満で学校生活も楽しく過ごしており、それはあくまで“ちょっとした違和感”に過ぎなかった。
「確かに父と母は日本にルーツはありません。でも、僕は日本で生まれ育っているので、心の中では自分が日本人だと思っていました。サッカーを始めてからずっと日本代表をテレビで見ていて、W杯ではそれこそ国民全体が熱狂していて。日本代表にずっと強烈な憧れがありました」
サッカーで日本代表になってW杯に出たい。日本を代表する選手としてヨーロッパで活躍したい。他のサッカー少年たちと同じように、タビナスはその夢を信じて疑わず、サッカーに打ち込んできた。
U-17日本代表にリストアップ
しかし、運命の歯車が大きく変わり始めたのは彼が高校2年生の頃だった。
「ジェフ(タビナスの愛称)の国籍ってどうなっているの?」
当時、神奈川県の強豪・桐光学園高の左サイドバックとしてメキメキと頭角を現すタビナスのもとに、U-17日本代表から招集の打診が掛かった。同校サッカー部の鈴木勝大監督から掛けられたこの何気ないひと言が自分のルーツを知るきっかけとなった。
「たぶん、(国籍は)日本だと思います」
タビナスはとっさにこう答えたが、一気に不安な気持ちが心を支配した。