濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「筋肉で私だってバレちゃうんです」 “乙女マッチョ”ぱんちゃん璃奈が「ポンコツの拳」で圧倒した“半年分の150秒”
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySachiko Hotaka
posted2021/05/30 11:04
多くの困難を越え、半年ぶりにこぎつけた試合でぱんちゃん璃奈は圧倒的な強さを見せつけた
カップ麺を泣きながら食べた4月
気持ちを変えてくれたのは練習だ。力をつけた確かな手応えがあった。相手どうこうではなく、今の自分の強さをリングで見せたいと思うようになった。
試合がなかなか決まらなかったから、試合用の練習もできなかった。相手を研究し、対策を練ることが不可能なのだ。だがその分、自分自身の地力強化、ベースアップができたはずだ。ボクシングジムでの出稽古で、パンチのバリエーションも増えた。右を傷めていたから、攻撃の起点となる左のジャブをひたすら打ち込んだ。
ただ自信を持てば持つほど「早く試合がしたい」とも思い、鬱憤がたまる。やはり選手は強くなるだけでなく、それを観客に見せる場が必要なのである。
ところが、4月25日に予定されていたMIREY戦は直前で延期となった。大会当日から緊急事態宣言が発令されることになったのだ。大会延期が決まったのは23日の夜。試合2日前だが、試合前日の昼には規定体重の計量がある。つまり計量の半日前に、選手たちは“それまでの減量が無駄になった”のだ。
その夜、いつもなら試合後のご褒美に食べるカップ麺を、ぱんちゃんは泣きながら食べた。翌日から、また4週間後に向けての練習が始まる。1試合で2度目の減量も。
「私だけが輝く姿を見せる。ぶっ飛ばします」
とことん凹みながら考えたのは「この4週間で成長しなかったら意味がない」ということだ。カウンターを意識し、力む癖を修正した。
前回は3-0の判定勝ち。ジャッジ2人は30-27の大差をつけた。だから「今回はそれ以上の差をつけなきゃいけない」と決意して試合に臨んだ。計量をクリアし、会見に臨むとぱんちゃんはこう言い放った。
「私だけが輝く姿を見せる。一方的にぶっ飛ばします」
半年間=5カ月プラス4週間の練習にそれだけの手応えがあったのだ。実際の試合は、その自信をも超えるものだった。
序盤からワンツーが冴える。基本的には蹴り、特に前蹴りを得意とするぱんちゃんだが今回はパンチが目立った。接近戦ではヒザ蹴り。身長差があるからいつも以上に有効だった。
ワンツーはリズムを変えて3パターン用意していた。それが見事に決まる。実は相手が懐に入ってきたところにアッパーを合わせる練習もしていたのだが、それは使うまでもなかった。1ラウンド終盤に右ストレートがクリーンヒット。意識を飛ばされたMIREYはグラリと崩れ落ちた。