濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「筋肉で私だってバレちゃうんです」 “乙女マッチョ”ぱんちゃん璃奈が「ポンコツの拳」で圧倒した“半年分の150秒”
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySachiko Hotaka
posted2021/05/30 11:04
多くの困難を越え、半年ぶりにこぎつけた試合でぱんちゃん璃奈は圧倒的な強さを見せつけた
「腕の筋肉で私だってバレちゃうんです」
「今回初めて、計量の記事より試合の記事のほうが反響が大きかったんです。それも嬉しかった」
ぱんちゃんはそうも語っている。逆に言えば、計量での絞りに絞った“バキバキ”の体にそれだけインパクトがあるということだ。会場で取材すると、特に今回は背筋に迫力を感じた。パンチの練習の成果だという。
また手術後は拳が使えない分、下半身及び体幹を重点的に鍛えた。筋量を増やすことを目的とした練習は特にしていないのだが、脂肪がつきにくい体質なのか自然に筋肉が目立つ。周りからは「1階級上の筋肉だよ」と言われるそうだ。
「夏になっても街ではタンクトップ着れないですね。凄い見られるし、腕(の筋肉)で私だってバレちゃうんです(苦笑)」
減量の過程や計量についてSNSに写真を投稿する際、ぱんちゃんは「#乙女マッチョ」というハッシュタグを使う。
「筋肉ムキムキになっても乙女の気持ちは忘れてないぞっていう意味です」
見た目だけだと言われるのが嫌だったし、自分で実力に納得できないのに強いと言われるのも嫌だった。だから必死に強くなろうとしてきた。練習は週6日。1日3部練習の日もあり、トータルで週13回のトレーニングに励んできたからこの肉体になった。それが好きか嫌いかは「時と場合によります(笑)」。ただ同時に「作品だと思っています」とも言う。今回の筋肉はキャリア史上最高傑作だった。
「華があって強くて倒せる選手に」
そうなってみて、やっぱり「乙女」の部分も大事にしたいと思う。普段は格闘技にのめり込みすぎるから、あえて「#乙女マッチョ」と書いている部分もあるという。コスチュームカラーはピンクと紫。今回は初めてデザイナーにコスチュームを依頼し、チョーカーのイメージで首まわりにもこだわった。ぶっつけ本番で着てみたら意外と苦しかったそうだが。
計量で着る水着も厳選したもの。チャンピオンベルトについては「(土台のレザー部分が)ピンクがいいなって」思っていたそうだ。しかしピンクのコスチューム姿で肩からかけると黒のほうが映える気もして、今では気に入っている。
バキバキの筋肉でワンパンチKOするのも、コスチュームやネイルでテンションが上がるのも“キックボクサー・ぱんちゃん璃奈”の本質だ。可愛いだけの選手ではないし、といって強さとは“乙女の部分”を捨てることではない。
「強いだけでも可愛いだけでもない選手になりたいです。華があって強くて倒せる選手に」
プロ10連勝の節目で、いよいよすべてが整い、噛み合った。そうさせたのはたった一発のパンチ。そしてそれは、半年かけて練り上げたものでもあった。