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体操・寺本明日香は重圧を背負い続けてきた ロンドン、リオに続く3度目の五輪を失ったとき涙を流して語ったこと
posted2021/05/30 11:05
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Naoki Morita/AFLO SPORT
5月中旬、体操のNHK杯が行なわれ、女子の日本代表が決定した。3大会連続出場はならなかった寺本明日香の、試合を終えての晴れやかな表情と涙は、さまざまな思いを伝えるようだった。
寺本は日本体操女子を牽引してきた第一人者だ。
2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロのオリンピックに出場。リオの団体総合ではメダルまであと一歩の4位、個人総合は日本女子52年ぶりの入賞となる8位の成績を残した。
3度目のオリンピックを目指した寺本にアクシデントが起きたのは2020年2月。強化合宿中、ゆかの練習をしているときに左足アキレス腱断裂の大怪我を負った。
オリンピックイヤーに起きたあまりにも大きなアクシデントに一度は引退も覚悟した。その後、大会の1年延期が発表されるとそこに光明を見出し、リハビリを経て練習を再開。大会にも復帰を果たした寺本は、2021年、オリンピックシーズンを迎えた。
「10年間、ここまでよくやったなと思います」
選考対象大会の1つ、4月の全日本選手権は6位でNHK杯に臨む。団体代表枠は4。代表選手は全日本選手権の得点とNHK杯とを合わせた順位で決まる。
寺本は懸命の巻き返しを図る。大技の「チュソビチナ」を取り入れた跳馬は14.733点の高得点をマーク。段違い平行棒は13.400点、平均台は13.633点と順調に得点をあげた。
最後の種目はゆか。演技の最後、着地のバランスが崩れる。得点は11.833点にとどまった。最終順位は5位。代表入りはならなかった。
「めっちゃ、すっきりしています」
そう語った寺本には、感じていたことがあった。
「正直、もし今(代表に)入ってもオリンピックでメダルを獲れる演技はできないと思いました」
怪我のあと、やるだけのことはやった。その上で覚えたその感覚もやりきった思いを抱かせたのかもしれない。
ただ、自身の競技人生を振り返ったとき、感情があふれたように涙を流した。
「10年間、ここまでよくやったなと思います。ここまで引っ張ってくることができてよかったな、幸せだったなと思います」