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錦織圭「死人が出てまで…」だけじゃない意見とは 大坂なおみやナダル、セリーナの率直さと“五輪との微妙な距離感”
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph byJMPA
posted2021/05/13 17:30
2016年リオ五輪時の錦織圭。銅メダルを獲得し、その4年前のロンドン五輪でも活躍した
東京五輪で金メダルを取ってもポイントはない
ほとんどのテニス選手の目標は、四大大会で頂点に立つこと。原則として四大大会男女シングルスの出場枠は各128。そこに入るには、世界各地で開催されるツアー大会に出場してポイントを獲得し、世界ランキングを上げる必要がある。
上位選手ともなれば四大大会でシードをもらうため、さらに上の世界ランキングを目指す。上位シードを得られれば序盤戦で強豪との対戦を避けられる可能性が高まり、優勝への近道になる。多くの選手は常にポイントを頭に入れ、1ポイントでも多く稼ごうと必死になる。
しかし、東京五輪で金メダルを取ってもポイントはもらえない。だから、たとえ五輪が中止になったとしても、多くのテニス選手にとっては全くと言っていいほど競技面で影響がない。
一方、スポーツ界には五輪に全てをささげ、メダルに届くかどうかやその色で、その後の人生が大きく左右される選手も多い。五輪開催をめぐる今回のようなテーマに関する2人の発言は、自身の競技人生の中で五輪を極めて高い位置に置く選手の立場からはなかなか言えないことかもしれない。
大坂も錦織も価値を口にしている一方で
とはいえ、大坂や錦織が東京五輪を軽く見ているわけではない。むしろ逆だろう。今後、2度とないかもしれない母国開催の五輪に出場することには、特別な思いを抱いている。
大坂は4月に公開された国際テニス連盟(ITF)のインタビューで、その思いを語っている。
「日本を代表することは自分にとって、とても大事なこと。私が生まれた場所だし、母の母国でもある。間違いなくエキサイティングなものになると思う。人生の目標の一つ」
錦織は、出場することで五輪の重みや価値を実感してきた。
2016年8月14日、リオデジャネイロ五輪の3位決定戦でラファエル・ナダルを破って銅メダルを授与された表彰式後、筆者はその心境を聞いていた。テニスの日本勢として、五輪で実に96年ぶりのメダルという歴史的快挙を成し遂げた直後のことだった。