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「五輪選考会の標準記録も可能」NFL屈指の俊足選手が100m走に挑戦 “ボルトより速い〇〇選手”論に終止符? 

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及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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posted2021/05/13 11:01

「五輪選考会の標準記録も可能」NFL屈指の俊足選手が100m走に挑戦 “ボルトより速い〇〇選手”論に終止符?<Number Web> photograph by Getty Images

5月9日にカリフォルニアで行われた大会の陸上100mに出場したNFL選手のメトカーフ

「五輪選考会の標準記録も可能だと思っていたけど…」

 5月9日にカリフォルニア州ウォルナットで行われた大会の100m予選。2組目2レーンに入ったメトカーフは、スタート前、顔がこわばり、かなり緊張しているように見えた。

 前日も念入りにスタート練習をしていたが、その成果もあり、号砲が鳴ると勢いよく飛び出した。スタートからの爆発力は陸上選手にまったく劣らなかった。

 スタートから加速部分での予想外の善戦に「おおおっ」と期待した人も多かった。

 腕を大きく振って、193cm、108kgの体を必死に前に進ませる。60mくらいまでは大善戦したが、後半、スルスルとスピードをあげた選手たちに置いていかれ、残念ながら同組最下位に。しかし専門外の選手が人生初の100mレースで出した10秒37という数字は、誇れる立派な記録だ。

 だが周囲の賞賛をよそに、本人は悔しそうな表情も。

「自分が世界レベルのアスリートにどれだけ通用するのか試してみたかった。こういう機会をもらえたこと、速い選手と走れたことに感謝している。正直、オリンピック選考会の標準記録(10秒05)も可能だと思っていたけど。アメフトのスピードとリアルなスピードは全然違うね。世界レベルの選手と走れて光栄」

 謙虚な言葉が印象的だった。

 レースからも真剣さが十分に伝わってきた。後半、離されてからもほかの選手に視線を移すことも、スピードを緩めることもなく、ゴールだけを見ていた。「ベストを尽くした」という言葉通り、まさに全力疾走だった。

 過去に陸上経験はあったものの100mをレースで走るのは初めて。未知の領域で恥をかき、アメフト選手としての評価が下がる可能性も少なからずあった。だが彼は勇気をもって舞台に立った。その姿に、「メトカーフ、すごいな。俺、ファンになった」とSNSで賞賛の声が多く上がったのも頷ける。

アメフトと陸上では全然スピードが違う

 決勝の優勝タイムは9秒96。メトカーフはそれを観客席で見守った。

「アメフトとは全然スピードが違う」と口にしたように、当然ながらスピード対決は陸上選手に軍配が上がった。

【次ページ】 すでに始まっている「次の挑戦者探し」

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