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移籍なら“55億円支給”の噂も…欧米ゴルフ界が揺れる新ツアー騒動「PGAツアーの弱点を見事についた構想」とは?
posted2021/05/12 06:00
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Getty Images
まるでスパイ映画に出てくるストーリーのように、敵の姿は見えず、その実態もわからない。しかし、その見えない敵は莫大な資金を翳して甘い誘惑をしかけてくる。
ついつい、なびいてしまいそうな魅惑のオファーの数々は、巨万の財を築くことができる千載一遇のビッグチャンスなのかもしれないが、限りなく危険なトラップなのかもしれない。ひとたび一線を越えてしまったら、その向こう側に待っているのは、果たして天国か、それとも地獄か――。
そんなウソのような本当の話が、今、欧米ゴルフ界に起こりつつある。
世界一のプロゴルフツアーといえば、米PGAツアーであり、世界のゴルフ界といえば、その最高峰であるPGAツアーの独壇場であることは、ゴルフファンなら周知のことと思う。
しかし、無敵だったはずのPGAツアーに対抗する新ツアーを立ち上げるという驚きの構想が取り沙汰され、ゴルフ関係者が騒然となったのは2020年の年明けだった。
「もはや絵空事ではなさそうだ」
英国に拠点を置くワールド・ゴルフ・グループ(WGG)が年間15~20試合を開催する本格的な新ツアーを創設する草案を初めて発表したのは、その2年前の2018年5月だった。しかし、そのときはゴルフ界も選手たちも「そんな構想は妄想だ。絵空事だ」と取り合わなかった。
だが、きわめて具体的な内容が昨年1月に明かされると、「もはや絵空事ではなさそうだ」と誰もが目を見張り、欧米ゴルフ界に緊張が走った。
新ツアーは「PGL(プレミア・ゴルフ・リーグ)」と名付けられ、背後には潤沢な「サウジ・マネー」があると伝えられた。年間18試合を開催予定で1試合の賞金総額は10ミリオン・ダラー(約11億円)。競技スタイルは個人戦とチーム戦の双方があり、個人戦は3日間大会で予選カットはなし、チーム戦は世界のトッププレーヤー48名を集め、4人1組、合計12組が世界一を競い合うという構想で、2022年から開始予定とされていた。
PGAツアーのジェイ・モナハン会長も、さすがに黙ってはいられなくなり、選手たちに「我がPGAツアーのメンバーであり続けるか、新ツアーでプレーするかを選ばなくてはならなくなる」と記したメモを回して即座に警戒した。
しかし、そのときPGLは、すでにPGAツアーの複数の人気選手たちに甘い誘惑をしかけ始めていた。