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「オスプレイvs鷹木」は何度でも見たくなる 格差への不満も数奇な運命もないのに“令和の名勝負数え唄”になったワケ
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2021/05/11 11:01
ウィル・オスプレイ(左)と鷹木信悟の長時間に及ぶ試合は、何度でもまた見たくなるものだった
終わってみればオスプレイの完勝だった
彼のニックネームを見ていくだけでもそれがわかる。エアリアル・アサシン、ジ・アサシン、そしてジ・コモンウェルス・キングピン。立ち位置が変わる度に新たな武器も手に入れる。しかも、それまでの武器を失うわけではない。シューティングスタープレスの高さや飛距離は以前よりも増しているのではないだろうか。頂点への渇望は打撃の残虐性を増し、スピードを失わずに大きくなった肉体を存分に活かしたローリングエルボーや真空飛び膝蹴りは、それ1発で試合が終わってもおかしくない説得力を持っている。
体が大きくなると共にスタミナの消費が激しくなるのが当然であるにもかかわらず、スタミナやタフさはどんどん増している。
鷹木に場外でのMADE IN JAPANで流れを握られ、カウント19でなんとかリングに戻ったところを再びMADE IN JAPANで叩きつけられたのが30分のことだ。そこから更に15分も戦って勝利してみせた。鷹木式オスカッターでまさかのカウンターを食らい、更にパンピングボンバーで吹っ飛ばされても、レインメイカーを披露して次期挑戦者のオカダ・カズチカを挑発する余裕もあった。
一進一退の激しい攻防が繰り返されたにも関わらず、終わってみればオスプレイの完勝だったという印象を強く刷り込まれるのは、この無尽蔵のスタミナのせいで底が見えないからだ。
この先も2人は何度もぶつかり合うだろう
試合後、ド派手なヴェルサーチのバスローブを纏って不敵な表情を浮かべてみせるオスプレイには、早くも絶対王者の貫録さえ漂っていた。彼からベルトを奪取できる選手はいるのだろうか? 今の圧倒的な勢いでは、オカダでも難しいかもしれない。
幸運なことに、この先も2人は何度もぶつかり合うだろう。防衛ロードの先に5度目のシングルマッチを、そこで鷹木が見せてくれるifを期待したくなってしまうが、その気持ちはしばらく抑えることにしよう。
5.29の東京ドームは延期になってしまったが、オカダの出番が迫っている。なにより、オスプレイvs鷹木は今の世の中に合っていない。あんな凄い試合を見られるのはこの上ない幸福だが、あんな凄い試合を見せられて声を出せないのは拷問に近いものがある。
【2021年5月4日 福岡国際センター 〈新日本プロレス:レスリングどんたく2021〉第5試合 IWGP世界ヘビー級選手権試合 ○チャンピオン:ウィル・オスプレイ(44分53秒 ストームブレイカー→片エビ固め)●チャレンジャー:鷹木信悟】