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「兄はお兄ちゃんではない」 日本レスリング界の貴公子・乙黒拓斗が“精神的な問題”を克服できた理由
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph bySachiko Hotaka
posted2021/04/28 11:01
乙黒拓斗はアジア選手権を難なく優勝し、東京五輪へはずみをつけた
「自分で言うな、と突っ込まれそうですけど(苦笑)」
乙黒がマットに上がった4月17日、圭祐の姿は会場になかった。翌日、自分の試合が控えていたからだ。自衛隊に入る前、乙黒は「兄に頼らないようにしないといけない」と決意。それを実行した格好だ。以前の乙黒なら、当たり前のように兄にセコンドを頼んでいただろう。
「実際、以前ほど依存していないと思います。自分のことは自分でやらないといけない。そういう面でも自分は成長しているかな、と。自分で言うな、と突っ込まれそうですけど(苦笑)」
グレコローマン、女子に続いて行なわれたフリースタイルの乙黒の試合日程は大会の終盤。現地には、アジア選手権の直前に行なわれたアジア最終予選出場組でカザフスタンに滞在していた者からコロナ感染者が出たといった報告もすでに受けてた。動揺はなかったのかと聞くと、乙黒は毅然とした面持ちで答えた。
「別に自分が気にしたところで、状況は変わらない。僕はコロナに細心の注意を払いながら、試合に集中して勝つことだけを心がけていました」
大人になって、オリンピックで金メダルを獲る準備は整った。