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「憧れの存在」高橋大輔のアイスダンス転向に「絶対負けちゃだめだ」 小松原美里・尊組が見せた“第一人者”の意地
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2021/04/18 11:02
2年前の世界選手権では踊ることのできなかったフリーダンス『ある愛の詩』を演じきった小松原美里・尊組
大会を重ね、少しずつ地力をあげてきた2人が、忘れることのない悔しさを味わったのは2019年、さいたまで行われた世界選手権だった。リズムダンスの20位までがフリーダンスに進めるが、リズムダンスは惜しくも21位。フリーダンスを滑ることなく、大会を終え、涙を流した。
新たなスタートを誓った19-20シーズンは、開幕を前にアクシデントに見舞われる。美里が夏場の練習中の転倒で脳しんとうを起こしたのである。それは軽いものではなく、日常生活に支障をきたすレベルの症状が出るほどだった。
懸命のリハビリを続けて大会に復帰するが、再度症状が出てNHK杯の欠場を余儀なくされた。
それでも復帰後は19年、20年と全日本選手権を制して3連覇を達成したが、アイスダンスの話題を集めたのは高橋だった。
高橋への憧れと第一人者の意地
「スケートを始めたときから同じクラブにいて、夢のような存在です」
高橋についてこう語っていた美里は、NHK杯では次のように話した。
「やっとアイスダンスが日本で注目を浴びて、『やっぱりアイスダンスかっこいいでしょう』って光を当ててもらえる。コロナ禍じゃなければ一緒に飲みに行って、(高橋に)インタビューしたいんです。『何が大変?』とか、伺いたいです」
尊もまた、高橋への憧れがあったことを明かしている。
「2012年のコロラドの四大陸選手権でボランティアしたとき、高橋選手に写真を撮ってもらいました。当時は僕もシングルの選手で憧れの存在でした」
ただ、リスペクトする一方ではなかった。美里は西日本選手権でこう話している。
「自分のずっとやってきた競技なので絶対に負けちゃだめだって鼓舞する気持ちはすごくあります」
同じ競技者として、アイスダンスで先行する立場として、奮い立つ思いがあっただろう。優勝を重ね、たどり着いたのが今年3月にあった2度目の世界選手権だった。ジャンプがないアイスダンスでは、シングルに比べると大会ごとに大きく順位が変動することは少ない。小松原美里・尊組はパーソナルスコアで他の組と比較をすると、北京五輪の出場枠を確保できるかどうか、簡単とは言えない位置にいたし、大きく上下しないものの、少しのミスが命取りになりかねない立ち位置にいた。