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【箱根駅伝スカウト事情】“名門”ではない大学はどうやってトップランナーを? 「国体3000m」と“目には見えない縁”とは
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byNanae Suzuki
posted2021/03/31 11:04
第96回箱根駅伝(2020年1月)で総合3位に入った國學院大。着実に実績を積み上げてきたことで、有望な素材が集まりつつある
前田監督が目を奪われた逸材
2015年の冬。埼玉栄高の練習に出向くと、実績もタイムもない1人の走りに目を奪われた。
当時、同校で注目されていたのは中村大聖(駒澤大→ヤクルト)と館澤亨次(東海大→DeNA)。前田監督と実業団の富士通で同期だった神山洋一監督に聞くと、「1年生のときはあの2人と同じくらいだった」という。全国高校駅伝でも補欠だったものの、ポテンシャルは秘めているのだ。その場で本人と話をさせてもらった。前田監督は6年前のことをはっきり覚えている。
「『大学に入って、(同期の)あの2人を超えたいと思っています』と言ったんです。あの表情、あの目を見たとき、もうこの選手しかいないと思いました」
2019年出雲駅伝で初優勝のゴールテープを切った土方英和(現・ホンダ)である。
最終6区のラスト700mで同じ埼玉栄高から駒澤大に進んだ中村大聖を抜いたシーンに感慨を覚えないわけがない。國學院大では3年時から主将を務め、箱根の総合3位にも大きく貢献した。今年2月のびわ湖毎日マラソンで2位となり、日本歴代5位の2時間6分26秒のタイムを出すなど、実業団でも成長を続けている。前田監督の目に狂いはなかった。
「土方の場合は貧血が原因でしたが、故障などで高校3年生のときに記録がほとんど伸びていない選手もいます。タイムは14分50秒くらいでぱっとしなくても、大学で快復すると、一気に飛躍する選手もいるんです。土方のように潜在能力はあるけど、たまたま埋もれているケースもあります。それは高校の先生から『タイムは持っていないけど、いい選手がいます』と教えてもらい、知ることが多いです。最終的には私の目で確認しますが、そのつながりから得る情報は大事にしています」
駒大・大八木監督の言葉
長い年月をかけて構築してきた関係がもたらす情報ほど有益なものはない。高校側から秘めた潜在能力を持った選手を送ってもらい、大学側としてはその才能を引き出して、ぐんと成長させる。選手育成の実績を重ねれば重ねるほど、信頼関係は深まっていく。
そして、前田監督がいまも昔も変わらず大切にしているのは、目には見えない縁だ。
「高校時代に結果を出していない選手をポンと一本釣りするなんて、そんな神がかり的なことは誰にもできませんよ。(出身の)駒澤大の大八木弘明監督から言われ続けた『縁を大事にしろ』という言葉はずっと心に留めています。不思議と結果を出すのは、縁があり、入ってきた選手ばかりなんです」