箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
【箱根駅伝スカウト事情】“名門”ではない大学はどうやってトップランナーを? 「国体3000m」と“目には見えない縁”とは
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byNanae Suzuki
posted2021/03/31 11:04
第96回箱根駅伝(2020年1月)で総合3位に入った國學院大。着実に実績を積み上げてきたことで、有望な素材が集まりつつある
必ず見る「国体の3000m決勝」
秋の気配が漂う10月に開催される国民体育大会(国体)の少年男子B3000m決勝。緊張した面持ちでスタートラインに並ぶのは、あどけなさが残る中学3年生と高校1年生。スタンドを見渡すと、応援団にまじり、箱根駅伝で優勝経験を持つ強豪からシード常連の中堅まで、大学陸上部のスカウトたちが目を凝らしている。最初に目星をつけるには、持ってこいの大会なのだ。高速化が進む箱根駅伝に対応できるスピードランナーの需要は高まるばかり。
「国体は学年が限定されますし、3000mはスピード値が出やすい。ここで結果を出した選手たちはスピードに自信を持っている選手たちです。過去の大会結果を見ると、上位の選手たちは名門大学に進んでいることが多く、エースにもなっています。うちも入賞者は必ずチェックしています。だいたい高校1年生の秋頃から目をつけ、継続して追っていく感じです」(前田監督)
今年1月の箱根駅伝で13年ぶりに総合優勝をさらった駒澤大のエース、田澤廉(当時・青森山田高1年)も2016年度大会で2位となり、駒大に入学している。
このとき、3位で表彰台に上がった高校1年生もまた名の知れた箱根ランナーになっている。九州学院高(熊本)から早稲田大に進学した井川龍人、約3カ月前に箱根の1区で区間5位と好走したのは記憶に新しいだろう。
各大学の担当は夏のインターハイ、冬の全国高校駅伝にも足を運ぶが、頭角を現す前からいち早くチェックしているのだ。動きの早い大学になると、中学3年生の頃から目をつけ、進路に目を光らせる。箱根で優勝経験を持つような名門大学は、有力高校のエースをはじめ、全国の舞台で結果を残している世代トップランナーたちを軒並みスカウトしていく。國學院大をはじめとする第2勢力、第3勢力となる大学が、その争いに割って入るのは簡単なことではない。
「タイムだけでは見えない部分がある」
近年は全国の上位選手以外の隠れた逸材をめぐる獲得競争もし烈を極める。情報化が進み、キーボードを一つ叩けば、種目別で作成された全国ランキングが出てくる時代である。地方の小規模レースでも、動画サイトで映像をチェックできる。
ただ、前田監督は簡単に情報を収集できるようになっても、スカウトには一家言を持ち、担当の石川昌伸コーチと考え方を共有している。
「タイムだけでは見えない部分があります。僕らはスピード、動きなども重視していますが、“中身”はもっと大事。人間性です。それは直接本人と会って話さないと、分かりません。最終的に勧誘するときは國學院に入って、何がしたいのかを聞きます。ビジョンを持っていないと難しいです。タイムがあっても、途中で退部したりすると、互いにとって、よくないので。高校の先生から言われて、漠然と走っているだけでは大学で成長しないと思います」(前田監督)
だからこそ、日頃から選手を見ている高校の監督と頻繁にコミュニケーションを取り、練習にも足を運ぶ。そこで、思わぬ逸材に出会ったこともある。