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「おーい、ハンバーグ!」ジャマイカから来た少年・鈴木武蔵が浴びた痛烈な言葉…“シッカロール”を全身に塗りつけた日々
text by
鈴木武蔵Musashi Suzuki
photograph byGetty Images
posted2021/04/01 11:06
ルーツを持つジャマイカと対戦したU-17W杯(2011年)。小学校入学と同時に来日した鈴木は、当時に浴びた言葉の一つ一つを今でもハッキリと記憶している
パス回しに入れてもらえなかった
ときを同じくして、僕はサッカーチームでもいじめられるようになった。
そもそもサッカーを始めたのは、小学校2年生のときに、近所の友達に誘われて、韮川西小学校サッカースポーツ少年団に体験入部したことがきっかけだった。
当時の僕は、サッカーにそこまで興味があったわけではなかった。ジャマイカでは荒野で紙パックを蹴るか、砂浜を走りまわることくらいしかしていなかった。なので、日本では運動さえできればなんでもいいと思っていた。もし、最初に誘ってくれたのが野球だったら野球をやっていたかもしれないし、バスケットボールだったらバスケットボールをしていたかもしれない。
サッカーを本格的に始めた僕だったけど、学校だけでなく、サッカーチームでも無視をされたり、グループでのパス回しに僕だけ入れてもらえなかったり、肌の色のことを揶揄されたりするようになった。
最初は意味がわからなかったし、悔しくて、悔しくて、ときにはいじめっ子に歯向かっていったこともあった。でも、僕が反抗すればするほど、彼らのいじめはエスカレートしていった。
そして、僕はこう思った。
「これ以上、自分が反抗すれば、もっともっと自分の立場がつらくなっていく。もう反抗せずにおとなしくしておこう。そうしておけば、そのうち、あいつらも飽きるだろうから」
感情をぶつけ合って喧嘩をしたり、言い争ったりすることは、何もメリットがない。むしろデメリットしかない。そこから僕は、何を言われても沈黙するようになっていった。
おじいちゃんと一緒に向かった理髪店
追い討ちをかけるように、さらにショッキングな出来事があった。
ちょうどいじめにあっているときに、僕はおじいちゃんと一緒に近所の理髪店に行った。ジャマイカではヘイゼル(インド系移民の家政婦さん)に髪を切ってもらっていた。日本に来てからはおじいちゃんに切ってもらっていたから、このとき初めて理髪店というところに行ったんだ。
そこは個人経営の小さなお店だった。ちょっと緊張しながら、おじいちゃんと手をつないでお店に入ると、早速、髪よけ用の白い布を体にかけてもらい、大きな鏡の前にある椅子に座った。
椅子に座ると、白い布に黒い僕の顔が浮き出ているように見えた。
みんなが馬鹿にする僕の黒い顔。鏡に映るその姿を見るのが嫌で嫌で、僕は目をつぶっていた。すると、店主がおじいちゃんに話している内容が聞こえてきた。
「この子の髪の毛のくるくる具合はすごいねえ。こんなにくるくるだと、料金は高くなりますよ」
目を閉じた真っ暗な世界。その世界に飛び込んできたこの言葉は、僕の心の奥底まで突き刺さった。
「すみません、高くなってもいいのでお願いします」
「わかりました。で、どんな髪型にしましょうか?」
「もう全部短く切ってください」
店主とおじいちゃんの会話の一つひとつが、僕にとってはつらかった。店主が僕の髪を切り始めたけど、僕の心はギュッと締めつけられていた。
「早く帰りたい! 早くここから出たい 」
僕はつぶった目にさらに力を入れた。背筋を伸ばし、白い布の下の両手の拳をぎゅっと握りしめていた。