ラストマッチBACK NUMBER
<現役最終戦に秘めた思い(13)>宮間あや「信じてきたサッカーに誠実でいたかった」
posted2021/03/31 08:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
J.LEAGUE
現役最終戦を「覚えていない」と語るサッカー女子代表の栄光を支えた司令塔。記憶に鮮明なのは、なでしこ最後の試合だった。
2016.5.29
なでしこリーグ1部 第11節
成績
岡山湯郷Belle 0-5 日テレ・ベレーザ(前半0-4 後半0-1)
◇
なでしこは失意の底にいた。リオデジャネイロ五輪への出場権をかけたアジア最終予選、北朝鮮との最終戦を迎えた時点ですでにブラジル行きの可能性は消えていた。
たとえ勝っても「敗退」という事実は変わらない。そんな2016年3月9日の朝、宮間あやは、とてもひとりでじっとしていることができなかった。31歳の自分にとって、このユニホームを着る最後になるかもしれない。何よりも2011年のドイツ・ワールドカップで優勝してから空前のフィーバーと重圧の中をくぐり抜けてきた仲間たちとの最後のゲームになるかもしれない。そう考えると、居ても立っても居られなくなったのだ。
《体験したことのないプレッシャーを乗り越えてきた仲間たちに、とにかく「ありがとう」と伝えたかったのを覚えています。その上で、自分は次の世代に何かを残せただろうか……と考えていました》
大阪・東住吉のキンチョウスタジアムで行われる最終戦のキックオフまで、まだ数時間あった。宮間はホテルの自室を出ると、チームメイトたちの部屋をまわり始めた。どの部屋にもロックはかかっていなかった。いつ誰が訪れてもいいようになっている。そうやって、このチームはひとつになってきた。