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【センバツ初出場】“離島の大崎高校”の奇跡 「犯罪者のような扱いでした」2度の“不適切な指導”から復活した監督
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKYODO
posted2021/03/18 18:21
初出場を決め選手たちに胴上げされる大崎高校の清水監督
清水 清峰時代、西海市出身の教え子がいたんです。それでその親御さんが、西海市長だった田中隆一さんのご近所だったらしく、どこまで本気だったのかわかりませんが、ことあるたびに「清水さんを西海市に呼んでください」とお願いしていたそうなんです。佐世保実業を辞めたとき、僕は犯罪者のような扱いを受けていました。街もまともに歩けないような状況で。そんなタイミングだったので、田中市長は、今なら来てくれるかもしれないと思ったそうなんです。
――なるほど。佐世保で結果を出し続けているときはさすがに無理だと思ったけれども、苦境に立たされている今なら手を差し伸べれば応じてくれるかもしれない、と。
清水 はい。謹慎が空けるまでは西海市の教育委員会で働いて、そのあと、西海市の高校野球の指導者になって欲しいと頼まれました。ただ、日本学生野球協会から下った謹慎処分は、最終的には誤解が解けて2年半になりましたが、その時点ではまだ無期謹慎だったんです。それでも田中市長は、私が報道内容は事実ではなく、じつはこういうことだったんですと話したら、それを信じてくれ、待つと言ってくれたんです。こんな自分にそこまで言ってくれる人がいるなら、また高校野球の現場に戻らなければならないと思ったんです。
「西海市の高校サイドにはまだ抵抗があった」
――謹慎が解けたのは2016年3月ですよね。大崎高校に赴任したのは2018年春ですから、処分が明けてから約2年ぐらいブランクがあったんですね。
清水 処分が明けても、西海市の高校サイドにはまだ抵抗があったようです。事件の報道内容を新聞などで読んで気にしていたのだと思います。田中市長は何度もプッシュしてくれていたようなのですが。
――西海市にはいくつ高校があるのですか。
清水 大崎高校、西彼杵高校、西彼農業の3つです。西海市の人口は約2万8000人ですから、比率からいったら多い方です。この規模の市で3つの高校を維持するのは正直、大変だと思いますよ。大崎高校は今、全校生徒が100人ちょっとしかいない。大崎は、かつては炭鉱の島として栄えていたところなんです。しかし、炭鉱が閉山となってしまい、大島造船所を誘致した。大島造船所は国内3位の造船所ですからね。従業員の家族の受け皿として、高校をなくすわけにはいかないじゃないですか。だから、高校野球で盛り上げていきたいというのもあるんだと思います。
――西海市で離島にある高校は大崎高校だけなんですよね。