濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
那須川天心との練習で「この野郎!」 腕立てもできなかった寺山日葵20歳が女子キックのトップに立てた理由
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2021/03/06 11:02
RISEで田渕涼香(左)とぶつかったトップ格闘家の寺山日葵は体を動かすこと全般が苦手だという
「天心は兄貴分だしヒーローでもある」
「天心は私たちの先頭を走ってくれる、憧れの存在ですね。兄貴分だしヒーローでもあるし。私は練習での悩みをあまり人に言わないタイプなんです。自分で抱えて考えすぎて、爆発してしまう。そうなりそうな時に、天心は絶妙なアドバイスをくれるんですよ。心を読まれてるのかなっていうくらい」
いつか那須川天心の横に立つくらい強くなりたい。寺山はそう思っている。だから余計に「自分はまだまだ」だと思う。強さの基準が那須川天心なのだ。
「あれだけ結果を出して、それでも天心はまだ強くなってますもんね。テレビにたくさん出て、YouTubeもやって、でも練習もおろそかにしていない。天心は何でもできるけど、努力もしている。まだまだ差があるって思うから、その点ではモチベーションが下がったことがないんです。ずっと高いままですね」
体を動かすこと全般が苦手なチャンピオン
昨年から、那須川と同じトレーナーについて専門的なフィジカルトレーニングを始めたそうだ。ただ「最初は腕立て伏せもちゃんとできなかった」。ベンチプレスはバーだけを上げるところから。「それも10回できなかった」。格闘技以前に体を動かすこと全般が苦手。スキップもできなかったしプールで泳いでいたら救助されたこともある。自分では泳いでいるつもりだったが、周りからは溺れているように見えたらしい。
繰り返すが、にもかかわらず寺山日葵はチャンピオンなのである。フィジカルトレーナーにも「よくそれで勝ってきたね」と言われたそうだが、誰もがそう思うだろう。
「なんでここまでやれたのか。結局は負けん気かなって。うまくできないことばっかりで笑われて、でもそれで“なにくそ”って思う。その繰り返しだった気がします」