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那須川天心との練習で「この野郎!」 腕立てもできなかった寺山日葵20歳が女子キックのトップに立てた理由
posted2021/03/06 11:02
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Susumu Nagao
寺山日葵は不思議な選手だ。那須川天心を擁する立ち技格闘技イベントRISEの女子ミニフライ級チャンピオン。昨年秋には複数の団体、階級のチャンピオンが参戦した『QUEEN of QUEENS』トーナメントで優勝を果たした。トーナメント時は19歳、今年新成人。その若さで日本女子キック界軽量級のトップに立ったと言ってもいい。それでも彼女は「自分のことを強いと思ったことが一度もない」そうだ。
2月28日に開催されたRISEのビッグマッチ、横浜アリーナ大会では、デビュー4連勝中のホープ田渕涼香に判定勝利。だが自己評価は「まだまだです。もっと圧倒したかった」というものだった。
客観的に見れば、試合から感じたのは王者らしい安定感だ。田渕の武器は右ストレート。4勝中3試合でKO勝ちを収め、判定勝ちだった前戦でもダウンを奪った。相手は1階級上(フライ級)のRISE女子暫定王者・小林愛三だ。寺山も1ラウンドに危ない場面があったという。
「まともにもらったら倒されるなって。最後まで気が抜けなかったです」
得意の前蹴りがうまく当たらない、それなら
だがそうはならなかった。寺山の持ち味は手足の長さを活かした“制空権”を保つ闘い。この日もそれが冴えていた。得意の前蹴りは研究されていたのかうまく当たらない。それならと自分から見て最も近い位置にある田渕の前足(左足)に照準を定め、ローキックを多用。パンチを狙う相手の出足を止めた。
寺山もパンチ勝負から逃げたわけではなかった。ここぞという場面では打ち合う。自分が優位なはずの局面で競りかけられ、田渕は闘いにくくなったはずだ。3ラウンドを終えて、ジャッジの採点は3者とも1ポイント差。わずかではあるが、しかし確実に寺山が上回っていた。どんな相手でも大崩れせず、自分のスタイルを貫く強さがこの日の寺山にはあった。
そんな話を本人にすると「少しは成長できたような気はします」。対戦が予定されていたタイ人選手が来日できなくなった時、田渕を対戦相手にと希望したのは寺山自身で、そのこと自体にも彼女の成長が表れていた。