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大坂なおみ“女王対決”完勝後のセンチメンタルな舞台裏 涙のセリーナへ「いつまでもずっと…子供みたいだけど」
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2021/02/19 17:03
試合前の大坂なおみ(左)とセリーナ・ウィリアムズ。2018年全米とは対照的に、爽やかさと少々の切なさを内包した戦いとなった
ナーバスな大坂に対し、セリーナはここまでの戦いぶり同様、今大会の上々のコンディションを確信させる立ち上がりだった。いきなりブレークを奪い、エースから入ったサービスゲームも難なくキープ。第3ゲームもブレークポイントを握っていた。
「5-0にすることもできた」はずのブレークも
「5-0にすることもできた」とセリーナはあとで言ったが、それくらいの手応えがあったのだろう。
しかし、ここをしのいでサービスキープしてから大坂が変貌する。
「甘いボールを打ったら何をされるかと心配しすぎて、アンフォーストエラーが多くなっていた。0-2になって、自分がコントロールできることだけコントロールしよう、相手が何をしてくるかじゃなくて自分のテニスだけ考えようと思った」
このメンタルの修正力は持ち前の才能であると同時に、機能不全に陥ったりまた回復させたりしながら、磨きをかけてきたものだ。ショットのキレが増し、動きが柔軟になっていく。次のゲームで2度のデュースのあとブレークバックに成功。そのまま2-5までゲームを連取し、セットを先取した。
セリーナの咆哮にも反撃の芽を握りつぶして
第2セットになると、セリーナは自分を奮い立たせるように、渾身のウィナーを決めては咆哮を上げたが、第1ゲームをブレークした大坂を攻め入る隙は時間とともに狭まる。追うセリーナの表情に浮かぶ苦悶の色は濃くなる一方だったが、第8ゲームで試合は動いた。セリーナがブレークバック。3つもダブルフォルトをおかしては、さすがにそうなる。スコアは4-4に並んだ。
いつもなら、ここからセリーナ劇場が始まるのだ。体内のエネルギーの全てを集結させ、神経の隅々まで研ぎ澄まして一気にギアを上げ、相手は怯み、形勢は一気に傾いていく――そんなシーンを幾度見たか知れない。
ところがどうだろう、大坂はすぐさまセリーナの反撃の芽を捻り潰し、むしろ加速に転じた。セリーナの足を止めるウィナーを連発して再びブレークすると、最後はサーブ力を見せつけて完封。反撃を許すどころか1ポイントも与えずに因縁の対決の幕を下ろした。