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大坂なおみ“女王対決”完勝後のセンチメンタルな舞台裏 涙のセリーナへ「いつまでもずっと…子供みたいだけど」
posted2021/02/19 17:03
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Hiromasa Mano
ペコリ、ペコリと何度も頭を下げて駆け寄る大坂なおみに、セリーナ・ウィリアムズが静かに両手を広げる。優しい抱擁の中で、大坂はまたいつものように少女の心に戻っていた。
「セリーナに現実に会えて、近づけたりすることは、私にとってはいつも夢のような瞬間なの。彼女をちゃんと見ることもできない」
大坂の変わらぬ心は、私たちが感じていた<時代の交代>の興奮と一種の切なさに抗うようだ。
3年前の夏の終わりにニューヨークで見た同じ2人の光景とはまるで違う。審判との揉め事も、観客の極端な肩入れもない。何にも邪魔されず、何の後味の悪さも残さず、大坂は憧れの人を見事に超えていった。
セリーナのグランドスラム制覇を2度阻むという偉業
史上最多タイ24回目のグランドスラム優勝というセリーナの悲願を、1度ならず2度も阻んだ選手は大坂ただ1人だ。セリーナへの純粋な憧れと尊敬の思いが誰よりも強い大坂が、と思えばあまりに皮肉だが、それは女王のバトンを受け取る者の宿命なのかもしれない。
全豪オープン準決勝、ロッド・レーバー・アリーナの選手入場口に向かう通路、過去のチャンピオンのネームボードが並ぶ中を歩きながら、この日も大坂は自分の名前のボードにそっと触れた。
別のスタジアムで試合が行われた3回戦を除いて、1回戦から欠かしていない。もしセリーナがそれをやるなら、7つのボードに触ることになる。2003年、05年、07年、09年、2010年、2015年、そして最後が2017年――大坂のささやかな験担ぎのパワーなど吸い取られそうな迫力の実績。
その通路をセリーナが先に進み、大坂はその背中が見える距離でついていく。基本的に、実績ではなく現在上位にいるほうがあとで入場するのが決まりである。
それだけで、緊張感の高まるシチュエーションだった。