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【インタビュー】29歳武尊が語る“過去最高の自分”「魔裟斗さんは一番強い時に引退した。そういう感覚に近い」
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph byKiichi Matsumoto
posted2021/02/20 11:04
昨年の大晦日、RIZINの会場に訪れて話題を呼んだ武尊。今は3月のタイトルマッチしか見ていない
「魔裟斗さんも30歳で引退した」
――これまでずっとK-1界を引っ張ってきて、追われる立場、憧れられたりする立場だったと思います。現在、29歳。そろそろ後を継いでほしいと思うような選手が現れたりするものでしょうか。
武尊 うーん、そういう選手が出てきたらいいなとは思いますけど、あんまり意識してそう見ていないかもしれないですね。言ってみれば全員ライバル、階級が違ったとしてもやっぱりライバルだし。むしろ、僕の後を追っている選手は後継者に絶対なれないと思う。僕の後を追うということは僕と同じことをするわけじゃないですか。それじゃ、たぶん同じか、それ以下にしかなれない。その選手オリジナルのやり方で引っ張っていくというか。後継者というほどには僕もまだまだですけど、そういう選手が出てきたら面白いなと思いますよね。
――30歳間近という年齢を、ファイターやアスリートとしてどう感じていますか。
武尊 K-1、特に立ち技は選手寿命が短い。今がたぶんピークだろうなと。
――今がピーク?
武尊 魔裟斗さんも「自分が一番強いときに」と30歳で引退しました。僕も今、そういう感覚に近い。一番強い自分で、一番最高な試合をしたいと思う。それが過ぎたなと自分で感じたら、リングにはもう上がらないなと思います。まずは目の前の戦いで結果を残さないと、次を考える資格はないと思う。今はこれをやりきるというところです。
メンタルがすべて。50歳まで現役?
――K-1の放送席から実況させてもらっていて、ずっと頂点にいることはとても大変なことだと思うんです。心の持っていき方、動かし方とか、マインドセットはどう考えているんですか?
武尊 何か自分を追い込むというか、あえてきつめの目標を自分に突きつける感じですね。試合に勝つ、KOで勝つという目標のために、練習はどんどんきつくしないといけない。そこに、もっとK-1を広めたい、もっと格闘技を盛り上げたいという思いがあるので、そういった活動もする。となると自分のプライベートの時間がなくなります。心のリフレッシュができなくなって、たまに寝られない日もあるほど。そうやっていけばいくほどきついんですけど、でもそれを続けると、「これだけきついことを他の選手はできないだろ」という優越感に浸れるんです。そう思ってくると、どんどんモチベーションが上がっていく。誇りではないですけど、これだけやってるから誰にも負けない、みたいな自信につながるのかなと思います。
―そういったモチベーションや心の成長は、まだまだ上がっていく?
武尊 メンタルな部分は考え方次第でいくらでも上げていける。身体も体調も全部がメンタルでできているものだと思うので、それがうまくやれるようになれば……50歳ぐらいまでいけるんじゃないですか(笑)。
――50歳、すごいですね(笑)。心の浮き沈みもある中で、ケガが続いたりすると「1回リセット」と思うこともあったのではないでしょうか。
武尊 なんだろう……モチベーション自体がないみたいなときは、「あっ、やる意味ないな」と思ったこともありました。でも、今、こうしてファンの人たちがここ数年ずっと期待してくれている試合があるじゃないですか。だから、まだ現役生活を続けているんだろうなと。
たとえばですけど、その試合を3年前ぐらいにやっていたとして、その試合に勝って終わっていたら、たぶんモチベーションはなくなっているんだろうなと思う。その試合のことばかり言われることは悔しいし、人によっては向こうの選手のほうが強い、お前は逃げていると言われるようになったり。だから、いつか絶対に証明してやるという反骨心みたいなものが、自分を格闘家として居続けさせてくれたのだろうなと思っています。今は対戦相手だけじゃなく、いろんな言葉を浴びせてきた人たち、こういう状況を作ることになった経緯や環境、いろんなことに感謝していますね。
――振り返ってみると、ある種、運命だった?
武尊 そうですね。だからこそ、僕が格闘家でいることができている。もし辞めていたら僕のことを知らなかった人もいっぱいいると思うし、人にパワーも与えられなかったと思う。だから、それをするためにこういう試練を与えてくれたのだろうなと。
――アスリートとしては、それはとても幸せなことですよね。
武尊 ただ、それは自分で作り上げただけのものではない。周囲の人たちや環境があるからこそ、今の現状があるので。そのすべてに感謝。そして何よりも、ずっと抱いていた悔しかった気持ちやつらかったことを、格闘家として証明することですべて満足できる。そこに向かうには、まずは目の前の試合に勝たないとダメだと思っています。