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「ははは、分かんない…ボクを出したら優勝できるんで」“ヴェルディの異端児”石塚啓次46歳、27年前・伝説のインタビューを振り返る
text by
栗原正夫Masao Kurihara
photograph byJ.LEAGUE
posted2021/02/20 17:05
京都府立山城高校から93年にヴェルディ川崎入りした石塚啓次
「いいシーズンなんてなかったけど、あのときは李(國秀)さんが総監督で、言葉が巧みで面白かったから。気に入って使ってもらっていた感覚もあったし、誰がいちばんいい監督やと言ったら李さんになるでしょうね。選手にしたら、使ってくれる監督がいちばんやし」
細身ながら184センチの長身で、リーチの長さを生かしたテクニカルなプレーが持ち味だった。また、個性的なファッションや大胆な言動で、異端児と呼ばれることも少なくなかった。
そんな石塚のイメージを印象づけた出来事の1つが、プロ2年目の94年ニコスシリーズ(セカンドステージ)で優勝争いを演じているなかでのガンバ大阪戦(第19節)後のひとコマだった。
この試合でプロ初先発を飾った石塚は、1-1の同点で迎えた終盤の81分、中央をドリブルで突破するとペナルティエリアの手前で右足を振り抜き、低い弾道のシュートをゴール左スミに流し込んだ。石塚の値千金のゴールのあと、ヴェルディはさらに1点を追加し、3-1と勝ってシリーズ優勝へ一歩前進。マン・オブ・ザ・マッチに選出された石塚は、ピッチ上でヒーローインタビューに応じたが、その態度が横柄だと物議を醸した。
問題となった中年の男性リポーターとのやり取りはこうだ。
――先輩の釜本(邦茂)監督率いるガンバに今日も勝利を与えませんでしたね。
石塚 (薄っすら笑みを浮かべながら)よくわからないです……。
――残り試合が少なくなるなか、相手(優勝を争うライバル)ベルマーレも勝っているということですよ。
石塚 (勝利数で上回っている)ウチがぜんぶ勝ったらいいことなんで、とくに相手は気にしてません。
――優勝に向けて一言お願いします。
石塚 僕を出したら優勝できるんで、よろしくお願いします。
「オレの仕事はしゃべることちゃうしね」
照れもあってか、ぶっきらぼうにそう答える様子は決して褒められたものではなかったかもしれない。ただ、石塚啓次というサッカー選手の絶対的なアイデンティティを広く周知したという点では、ある意味でプロっぽくもあったともいえる。当の石塚はどう思っているのだろうか。