すっかり逞しくなったユニフォーム姿のシルエット。マウンドでの支配感が、まさに“別人”だった。150キロに達した速球と落差の大きなカーブに、例のシュート…打者を見下ろすように投げ下ろす角度が圧倒的だった。学生時代は、球場で目が合うと向こうへ行ってしまっていたのが、東京ガスの頃は、見つけると向こうからやって来て、「取材ですか？」などと声をかけてきたから、もう一度驚いたものだ。

　ドラフト1位指名は、千葉ロッテと巨人の重複になった。もし、巨人が“当たり”を引いていたら、彼の野球人生はどうなっていただろうか……。

滑川高（富山）、中部大、東京ガスを経て、13年ドラフトで巨人、ロッテの2球団から1位指名を受けた。抽選の末、ロッテに入団した石川歩　©Sankei Shimbun

　千葉ロッテの1年目、10勝8敗で新人王を獲得。その後、3年目までは順調に2ケタ勝利を続けて、こりゃあリーグを代表する右腕に、と嬉しく思っていたら、そこから10勝に届かないシーズンが4年続く。

　もともとが、自分のことをそんなにすごいと思っていなかった石川歩だけに、「これぐらいやればいいかな……」なんて、低い所で納得してはいないか。

　冗談じゃない……こんなもんで終わる投手じゃない。顔じゅうヒゲになって、いでたちは勇ましくなったのだから、ピッチングだって、もっと「獰猛」になってよい。いや、ならなくちゃウソだ。

（5）「ハンカチ世代は遠くの国の出来事」京都外語大西高・大野雄大

　京都外語大西高・大野雄大投手（現・中日）は、ちょっと向こうでやっていた「ハンカチ世代」の激闘を、「どこか遠くの国の出来事」と表現していた。

　佛教大に進んで、心身共に「大人」にレベルアップし、チームを京滋大学リーグで無敵の存在にのし上げ、ドラフト1位で中日に入団した。

　2足分ほどインステップするのに、左腕独特のクロスファイアーの軌道が鋭く、何球も続けて右打者の内角にきっちりきめてくることに、実際にピッチングを受けてみて驚いた。

　体幹と地肩の強靭さを生かした、ねじ伏せるようなピッチングスタイルは10年以上経っても変わらない。その代わり、昨シーズンは新兵器ツーシームを勝負球に、11勝6敗、防御率1.82とすばらしい結果を残して沢村賞に輝き、中日ドラゴンズ8年ぶりのAクラス（3位）確保の立役者となった。

京都外語大西高、佛教大から10年ドラフト1位で中日に入団した大野雄大　©BUNGEISHUNJU

　大学4年生の春秋2シーズン、大野雄大は左肩痛で棒に振っていた。他球団が指名を見送る中で、中日は大野投手を決然と1位指名し獲得した。

　投げられるのかどうか、見通しの難しかった自分を1位指名してくれた「中日」に対する恩を少なからず感じている……大野投手は以前、そんな思いを語ってくれている。

　昨年、「国内FA権」を手に入れたが残留を選んで、さらに、チームの恩に報いる今季になるのか。

　ルーキー・高橋宏斗、「プロフェッショナル」の見本を示すのにうってつけの近未来エース候補が戦列に加わった。名実共に、チームの顔として君臨する準備は整った。

「遅れてやってきた大開花」を待つばかり

　2021年の「ハンカチ世代」。

「野手」にはまだまだ俊英が名を連ねる。

　ソフトバンク・柳田悠岐、レッズ・秋山翔吾に、新たに巨人のリードオフマンを狙う梶谷隆幸。渋いところで、DeNAのバッティング職人・宮崎敏郎に、広島・會澤翼も下積みが長かったからもっとベテランかと思ったら、実は今年33歳になる「ハンカチ世代」。

　あらためて「ハンカチ世代」の層の厚さに驚く。日米双方の球界にまで人材を広げ、日本プロ野球では、全体をリードする存在にまで台頭した。

　あとは、世代の象徴・斎藤佑樹の「遅れてやってきた大開花」を待つばかりなのだ。