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ギグス、フィーゴ…サッカー界の「ウイング」は死んだのか 39歳“最後の生き残り”ホアキンに聞く「今はパサーの時代だが…」
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byGetty Images
posted2021/02/10 17:00
今年7月に40歳の誕生日を迎えるホアキン・サンチェス
「家族から遠く離れた場所で、有名選手に囲まれ、おまけに一番大事なPKを蹴らなきゃならなかった。いろんな意味で忘れられない思い出だ」
準々決勝の韓国戦、当時のエースだったラウール・ゴンサレスが故障で不在の中、攻撃を牽引した。ポジションはもちろんウイング。韓国の左サイドを何度も破り、スペイン最大の脅威となった。
0ー0で迎えた延長戦、ある光景を忘れることができないという。
ホアキンのクロスから生まれた、モリエンテスによる幻のゴールだ。しかしクロスを上げる瞬間、ボールがゴールラインを割っていたと判定され、決勝点になっていたであろうゴールは無効となった。映像ではラインを割っていないことは明らかだ。当時、もしVARがあればゴールは認められ、ホアキンの人生は少しだけ変わっていたかもしれない。
迎えたPK戦、4番手で登場し、キックを外した。頭を抱えた。チーム最年少の彼は敗退を背負うことになった。その後何度も、ホアキンはその場面を頭に描いた。
「すべてのPKを決められるなら、僕はただの精密機械だ。でも僕は人間だし、奇跡を信じたり、あの日のように泣くこともある。あの後、自分の頭の中で何百回もあのPKを決めたよ。何度も何度もイメージして、何度も決めまくって……。ワールドカップでは一瞬にして喜びが悲しみへ、悲しみが喜びに変わるものなんだ」
約37億円で移籍も…「ウイングが減っていった」
その頃から彼は世界を代表するウイングとして評価を高めていく。ベティスは違約金を吊り上げたが、レアル・マドリーにバルセロナ、当時最先端にいたユベントス、ミラン、インテルのイタリア勢も獲得に興味を持った。
'06年ドイツW杯に出場後、彼は移籍を決意した。当時のバレンシア史上最高額となる約37億円での移籍だった。
キャリアは順調だった。しかしピッチ上でのわずかな変化にも気がついていた。